『刺し子』。日本が誇る伝統の1つではあるが、そう聞くと少し昔っぽい印象である。しかし、その技術を現代的デザインに落とし込むブランドがここにあった。zaziquo(ザジコ)という作家性の高いデザイン個性を持った刺し子とドローイングを洋服に落とし込んだブランドだ。そこで今回、デザイナーの清水えり子さんに、刺し子との出会いから、現在の表現に至るまでを伺わせてもらった。

刺し子という表現との出会い

—清水さんのこれまでについて教えて下さい。まず、幼い頃はどんな子供でしたか?

父が文章を書く仕事をしていて家に居たこともあって、外に出て遊ぶというよりは家で父や兄とままごとをしたり、絵を描いたりしている子供でした。小さい頃から何か作ったりするのが好きな子供でしたね。

−幼い頃から、色々と創作をされていたんですか?

まだ洋服とかはもちろん作ってなくて、絵ですね。あとは人形で遊ぶのも好きだったので、割と早い時期から洋服に興味は持っていたのだと思います。

−子供の頃に抱いた興味から、ファッションの道に進もうと本格的に意識し始めたのはいつ頃から?

高校生の頃です。ファッションが好きで、専門学校に行くか美大に行くかを悩んでいた時に、アントワープロイヤルアカデミーの卒業コレクションをインターネットで見て、凄い格好良いなって。既製品で量産されているものよりも、コンセプチュアルでアートと距離が近い洋服にこの時魅力を感じて、それが学べる環境に進みたいと思いました。専門学校よりも美大に行った方が、より自由な発想で洋服が作れるんじゃないかなって、武蔵野美術大学のテキスタイルデザインコースに進みました。

—武蔵美時代、服を作ることをあまりしていなかったと伺っています。なぜ、服を作ることではなく、テキスタイルデザインという選択をしたのでしょうか?

アパレルの洋服よりも、着られるアートピースに憧れを抱いていました。それを考えた時に、素材や色合いのような、洋服であること以外のもう1つの個性というか武器が自分には必要だなと思って。学校によっては、同じテキスタイルデザインのコースでも、洋服やバッグ、プロダクトにする段階まで教えてくれるところもあると思うんですけど、私が在籍したコースは特にアート色が強かったように思います。大学4年間は服を作ることは全くせずに、ひたすら自分の表現方法を探して、布を染めたり刺繍をしたりしていました。

−今、zaziquoでは刺し子というアイデンティティが確立されていると思います。刺し子という表現方法に出会ったのは、どんな流れでしたか?

大学生の時、ずっと自分の表現方法を探していたんです。誰もやっていなくて自分にしか出来ない表現はないかなって。そんな中、大学4年生の時に刺し子で作品を作っているアーティストの方が講義に来てくれたのがきっかけです。その人の作品が凄く格好良くて、自分もやってみようと思いました。

私の居た大学って、言葉にすると難しいんですけど、テクニカルな部分だけでじゃなくてコンセプトや自分が表現したいことで勝負しなければいけないところがあって。そんな中で、単純作業が好きなこともあったし、自分が対象物と向き合った時間がそのまま可視化されることが気持ち良くて、刺し子は私に合っているのかなって思ったんですよね。

 

zaziからzaziquoへ

−最初はzazi(ザジ)というブランドで活動されていたと思います。その時のことを教えていただけますか?

最初はzaziというブランドで2011年から活動をしていて、ブローチやドローイングのZINEなど、手に取りやすい小物を作っていました。それをお客さんが買ってくれて、もっと色んなものを見たいという言葉もいただいて。小物だったんですが洋服のお店に置いて頂いていたこともあり、自分も元々ファッションが好きだったので、そこで初めて洋服にしました。1番最初に作った1着は、私の中で思い出深いです。

—最初に作ったのは、どんな作品ですか?

卵みたいな黄色をした刺し子のスカートです。限定10着で製作して、lamp harajukuさんで販売しました。当時は全部自分で染めて、刺し子も全て自分でやっていました。

−2016年にzaziからzaziquoに変わったと思います。そこで、ブランドとして大きく変わったのはどんなところですか?

1番大きいのは、工場生産に取り組み始めたことです。zaziのときは、全てハンドメイドで製作していたので数に限界がありました。沢山製作するのが当時本当に大変で。刺し子風の機械刺繍とか、プリントも工場で量産できるものを色々とトライして、自分たちの手で作るものと棲み分けをして両方行っているのがzaziquoになります。

ザジコのプロダクトはいかにして生まれるのか

−清水さんの製作の仕方について聞かせて下さい。自分の中で、イメージしてから形にしていく作り方ですか? それとも、手を動かしていて、偶然生まれたものを作品に落とし込む作り方でしょうか?

どっちもあるんですけど、偶然生まれたものを使うことが多いかもしれません。偶然できた形とか色の組み合わせが好きです。手を動かしながら良い表現が見つかったら、それをそのままサンプルにして量産にしてみようって。

−それは、刺し子でもドローイングでも同じように?

一緒ですね。何も考えなくて気持ちが乗ってくると面白いものができるので、あまり狙ったりだとか「こういうものを作ろう」っていうのは思わないようにしています。絵を描くときも刺し子をするときも、気持ちが乗っているときに手を動かしているとアイディアが浮かんでくるって感じですね。表現や仕上がりは全く違うんですけど、感覚的には似ています。

−ドローイングでは花の写真等を使われていますよね。

昔から花が好きなんですよ。あれも、道端とかその辺にある花を写真に撮って使っています(笑)

−全身に刺し子を施したもの等、かなり手の凝った作品も多いと思います。一体製作にどのくらいの時間をかけているのですか?

かなり凝ったものになると丸2週間くらいですかね。毎日ずっと通しで作業できるわけではないので、アシスタントに手伝ってもらいながら、トータルでそのくらいの時間はかかっているのではないかと思います。

−そんな作品に対して、ドローイングをプリントした財布やトートバッグ、ポイントで刺繍の入ったTシャツ。zaziquoの作品は、買いやすい価格帯のもの、欲しくても高額でなかなか手に取りづらいものに分かれているように思います。そこにはビジネス的な意識も?

ありますね。他のブランドのようにスタイリングが組めたり、アイテムを上から下まで揃える必要は自分のブランドには必要ないと思っています。zaziquoのファンになって下さっているお客様は、テキスタイルやグラフィックの世界観が好きって言ってくれる方が多いので、それを感じられて、幅広い層や年代の方に手に取ってもらえるような商品構成は意識しています。刺し子で制作しているアートピースは今は商品というよりも、zaziquoの世界観を示す指標のような存在です。それを作ることで自分自身も気持ち良いし、原動力になっているし、消費されないために作り続けています。

−刺し子の洋服はアートピースだったんですね。ただ、刺し子って他人から見ると、かなり辛く地道でストイックな行為に見えます。清水さんが刺し子を行い続けるのはどうしてでしょう?

気持ち良いからですかね。すごく時間がかかるんですけど。ついやってしまうというか、やらないと気が済まないんです。今でこそアシスタントやお手伝いの皆にもかなり手伝ってもらっていますが、許されるなら本当はずっと刺し子をしていたいです。

−アートピースを最初に作り上げた時は、凄く達成感や気持ち良さを感じられると思います。作品のオーダーを受けるときもありますよね。そんな時も気持ち良さを感じながら製作を?

zaziの時は全て手作業でやっていたので自分たちで量産していたので、何ヶ月も家から出られないとかそういうレベルだったので、その時は辛かったですね。全然終わらなくて。生産に追われて新しいデザインや来年の計画も立てられないまま、刺し子ばっかりやっていたのでこれはまずいなと思いました。デザイナーとしても、小さな事業の経営者としても、次の展開を考えていかなければならないので、他のことにも時間をかけられるようにzaziquoにリニューアルしました。

清水さんが描くこれから

−色んな作品、経験を経て活動してきた清水さんだと思いますが、zaziquoとして今後どんな作品を作り、どんな活動をしていきたいですか?

今後も、自分が満足できるような熱量を100%注げる作品を発表していきたいです。定期的な発表をしながら、ファッションブランドとしてだけでなく企業へのデザイン提供などテキスタイルのお仕事も徐々に増えてきているので、色々なことに挑戦していきたいです。

−より幅広い分野でzaziquoの活躍が見られるのが楽しみです。最後に、清水さんの人生の目標を教えて下さい

死ぬまで作品を作り続けていくことです。今は小さな規模でファッションブランドをやっていますが、この先どんな形で自分が社会と関わり続けていくか分からない。それでも、自分にとって作ることは生きることとイコールなので、やめることは出来ないと思います。

 

“作品にはその人が現れる”というが、清水さんの作品はそれが明らかだ。他人には理解できないストイックなその行為は、彼女にしかできない。刺し子とドローイングを組み合わせ、今後どんな世界観を見せてくれるのであろうか。

 

清水えり子(しみず・えりこ)

1988年 東京生まれ。2011年より、ハンドプリントと刺し子を施した1点ものを手がけるブランドzaziをスタート。2016年に、ブランド名をzaziquoにリニューアル。手作業と国内工場の技術を織り交ぜた表現へと幅を広げ、手に取りやすい小物等のプロダクトから、アートピースとなる洋服まで展開している。