1946年創立の長い歴史の中で、「Dior(ディオール)」が初めてクリエイティブディレクターに抜擢した女性、それがMaria Grazia Chiuri(マリア・グラツィア・キウリ)だ。これまでに数々のヒットアイテムを生み出し、レッドカーペットの演出にも影響を与え、多くのモデルやハリウッド女優、ファッション関係者もその手腕を絶賛するマリア・グラツィア・キウリとは?

彼女の生い立ちや、これまでの輝かしい経歴にもせまりたい。

生い立ち

Maria Grazia Chiuri/Getty Images

Maria Grazia Chiuri(マリア・グラツィア・キウリ)は、1964年、イタリア・ローマで生まれた。

針子である母親を持ち、幼少の頃からファッションは身近な存在であったという。10代の頃のキウリは、自分らしい個性的なスタイルを見つける為に、ヴィンテージバッグなどを求めてマーケットへ通っていた。イタリアのIstituto Europeo di Design(ヨーロッパ・デザイン学院)を卒業すると、ラグジュアリーブランド「Fendi(フェンディ)」に入社。アクセサリー部門を担当、デザイナーとしてのキャリアをスタートさせた。

ピエールパオロ・ピッチョーリとの出会い

Maria Grazia Chiuri&Pierpaolo Piccioli/LODOVICO COLLI DI FELIZZANO/FAIRCHILD

ファッション・モード界で知らない人はいない、キウリとピエールパオロ・ピッチョーリの名コンビ。Istituto Europeo di Design(ヨーロッパ・デザイン学院)で出会った2人は、1980年代後半から仕事仲間としてタッグを組んできた。キウリが自身のいた「フェンディ」のアクセサリーデザインチームにピッチョーリを加え、2人はよきビジネスパートナーとして長い年月を共に歩むことになる。

やがて「フェンディ」を離れた2人は、共に「Valentino(ヴァレンティノ)」に入社。新しいアクセサリーラインの立ち上げを任されるようになる。彼らはあらゆる仕事を分担し、「ヴァレンティノ」創立者であるガラヴァーニの下、10年に渡りシューズとバッグのデザインを手がけてきた。

Valentino 2016-2017 autumn/winter Haute Couture fashion show  in Paris/AFP

2008年、キウリとピッチョーリは「ヴァレンティノ」のクリエイティブ・ディレクターに就任。

実験的なことが好きなピッチョーリと現実的なスタイルを好むキウリはまさに名コンビで、2人がもたらす化学反応は「ヴァレンティノ」成功に大きく貢献した。

ロマンチックかつエネルギッシュで、スタッズを代表するエッジ―なスタイルを打ち出した「ヴァレンティノ」は、過去7年間で売り上げを4倍以上へと跳ね上げ、10億ドルブランドとなった。

特にキウリが手掛けるフェミニンでエッジ―、魅力的なアクセサリーは、「ヴァレンティノ」セールスの50%にものぼる。

キウリとピッチョーリの手掛けるクチュールでのアプローチは、レッドカーペットにも大きな影響をもたらし、クリスティン・ダンストやルーニー・マーラ、ナオミ・ワッツ、キーラ・ナイトレイなど多くのハリウッド女優を魅了した。

ヴァレンティノを離れDiorへ

2016年、「Dior」はかねてより噂されていたラフ・シモンズの後任者について、キウリを新クリエイティブ・ディレクターに迎えると正式に発表した。

「Dior」の長い歴史の中で、女性がクリエイティブ・ディレクターに抜擢されるのは初の快挙。

当然「Dior」にとって重大な決定であったが、それは同時に「フェンディ」時代から26年もの間共に仕事をしてきた、キウリとピッチョーリのコンビ解消を決定づけた瞬間でもあった。(ピッチョーリはそのまま「ヴァレンティノ」に残り、現在は単独でクリエイティブディレクターに就いている)

DIOR 2017SSコレクション

キウリのデビューコレクションは、パリ・ファッション・ウィークで披露された2017年春夏ウィメンズコレクション。

キウリが選んだテーマは「フェンシング」で、そこには男女が同じユニフォームを着用するフェンシングの特性に、男女の性差別を縮めたいという自信の強い思いを重ねた。

スポーティーなフェンシングの防具にフェミニンな雰囲気を加え、モードなオートクチュールへと昇華。また、デニムパンツやTシャツといったカジュアルウェアも多く取り入れ、これまでとは異なるキウリ流の「Dior」スタイルを印象づけた。

最新コレクションのテーマは「ダンス」

2018年9月24日にフランス・パリで行われた2019年春夏ウィメンズコレクション。

「世界で一番美しい競馬場」とも言われるパリ16区・ブローニュの森の中にあるロンシャン競馬場内に、ランウェイショーのための特別な会場が設営された。「ダンス」がテーマの今シーズン、幕があがり現れたのは、ランウェイモデルではなくダンサーたち。色とりどりの花びらが降りしきる中、躍動感あふれるパフォーマンスを披露した。

実はダンスと「Dior」は縁が深く、ブランド設立者のムッシュ・ディオールもダンスを好み、イギリスの偉大なバレエダンサー、マーゴ・フォンテインを顧客に持っていたという。キウリは過去の資料、クラシックなダンスに加えて、コンテンポラリーダンスからも強いインスピレーションを受けて今シーズンのデザインを手がけた。

「Dior」クリエイティブ・ディレクター就任直後、チームのスタッフたちと「我々は女性であることを表現しなければならない」と話し合ったというキウリ。女性の社会的地位向上を重要なテーマとして掲げ、コレクションを見ている人々に訴えかけるスタイルは、「女性の在り方」を重要視しているキウリだからこそできるデザインだ。

まさに、現代が求めるデザイナーといえるマリア・グラツィア・キウリ。彼女の「Dior」での挑戦は、これからも多くの人々を惹きつけることだろう。