クリエイターとして、正直に、柔軟に、思い切り自分の道を選択する―。2012年に自身のブランド「liquid」を立ち上げ、活動を続けるジュエリーデザイナーの西田涼子は、変化の機運を逃さず、今年6月にニューヨークへ飛び出した。現地では、老舗のジュエリー制作学校で学び直しながら新作コレクションを発表、今月にはブルックリンで個展の開催を果たしている。

そんな彼女に、これまでの活動やニューヨークでの経験について話を聞いた。

ニットデザイナーからジュエリーデザイナーへ

―ジュエリーの制作を始めたきっかけは何ですか?

元々は、服飾系の専門学校を卒業した後、アパレルメーカーに入社したんです。人事配置でデザイナーになり、9年間ニットデザイナーをしていました。でも、自分で手を動かすのが好きなので、プライベートで何か作りたいなと思っていて。そんな時に、ファッションショーなどのイベントを企画するグループと出会って、一緒に活動するようになったのが制作を始めたきっかけです。最初はパーツをつなぐアクセサリーを作っていましたが、ずっとつけて貰えるようなもの、特別感のあるものを作りたいと思い、シルバーアクセサリーの制作を始めました。

 

これまでの活動や、ターニングポイントについて教えてください。

2012年に「liquid」を立ち上げました。最初は、仕事が休みの日に作って売るような形でしたね。ですが、働いていた会社が副業禁止だったので、2015年から「liquid」の活動を公にするために、正社員ではなく契約社員として働くことにしたんです。これがターニングポイントだったかな。その後は、月〜木曜はニットデザインの仕事、金〜日曜はジュエリー制作と、ダブルワークのような状態で3年間を過ごしました。両立は大変でしたが、ニットの仕事も好きだったし、アパレルのトレンドやマーケットの情報が入ってくる環境にいられたのはありがたかったです。

自身のブランド「liquid」について

―「liquid」のジュエリーの特徴やこだわりは何ですか?

元々アパレルデザイナーだったこともあって、ジュエリーそのものが主張するというよりは、ファッションになじむようなデザインを心がけています。あと、ユニセックスではありますが、基本的に自分がつけたいものという基準で作っているので、シルバーのハードさを和らげるような曲線の女性的なフォルムが多いかと思います。

 

―ジュエリーを制作する上で、大変で苦しいことはありますか?

デザインを出すときは、ほぼデザイン画を書いたりせずに、そのままイメージで削っていくので、ボツがかなり多いんです。ふわっとしたイメージを削りながら形にしてくので、納得いくまで終わりが見えなくて。それが苦しい。でも、その分、出来上がった時のワクワクはすごいです。「あぁ、これが作りたかったんだな」って思います。

 

逆に幸せな瞬間はどんな時ですか?

幸せなのは、やっぱり「可愛い」って言って貰えた時。デザインや制作は一人で行うので、たまに何が良いのか分からなくなる時があります。それでも展示会まで悩みに悩んだ後、当日お客様に「可愛い、欲しい」と言って貰えるのは、本当に幸せな瞬間です。

ニューヨークへ飛び出した理由

―現在、NYではジュエリーの学校に通いながら制作活動をされていますよね。NYへ来ることになった経緯を教えてください。

去年の6月に、留学中の友人を訪ねてパリへ行ったのが最初のきっかけです。正直な話、それまで海外にあまり興味はありませんでした。当時29歳という年齢だったのもあり、30代をどう過ごそうかとか、色々悩んでいたんですが、パリの人たちの周りの目を気にしていない感じが素敵だなって感じて。今出来ることに私も挑戦しようと思いました。あと、自分のジュエリーに関して、技術のバリエーションが少なく、デザインの幅が狭いと感じていたので、海外で改めてジュエリーの勉強をしようと。そう決めてからは、手続きや退職まで早かったので、本当に思いつきみたいな感じでしたね。

 

―海外の中でも、なぜNYを選んだのですか?

ジュエリーの本場と言えば、イタリアなどが挙がると思うんですが、私は単純に英語圏が良かったのと、自分のジュエリーのテイスト的にNYかなって。あとは、期間も半年程度に限られていたので、世界で一番いろんな文化や人種の人が集まっている場所に行こうと思いました。どうせ海外に行くなら、いろんな人と話したかったし、いろんな意見や生き方を見てみたかった。視野を広げたかったんです。

 

―NYに来て、感じたことを教えてください。

Airbnbで部屋を貸し出しているギャラリーに滞在していたのですが、そこで色々な国の人とお話できたのが、とても良かったです。本当にいろんな人がいるなって思いました。日本人も含めて、会う人みんながすごくかっこいい仕事をされていて。NYはそういう人たちが集まる場所なんだなって、改めて実感しました。逆に、刺激が多い分、最初は自分自身に対する自信をかなり無くしました。自分でものをデザインをしたり作ったりはしますが、私はジュエリーをつけて貰うことに喜びを感じるので、自己表現をする“アーティスト”とは違うなって前から思っていて…。でも、ジュエリーデザイナーとして、果たしてアーティストと言えなくていいのか?とか、色々考えましたね。

ニューヨークで誕生した新作コレクションと個展の開催

個展会場のインスタレーション

 

―NYに来られてから、新作コレクションを制作されましたよね。どのような新作になりましたか?

ジュエリー学校のスタジオを借りながら新作を制作しました。でも、道具がアナログなものが多くて(笑)、日本と違う環境で制作するのは大変でした。新作コレクションの名前は、NYに来て感じたことを投影した「The heavens」です。世界一と言える大都会で、様々なものが混ざりあった街とは反対に、時間ごとに色を変える空は、驚くほど澄んで綺麗でした。ビルの間に沈んでいく太陽、乾いた空気の中に横たわる雲、NYで見られるとは思っていなかった星。空の景色をテーマにして、沢山の希望や思いが溢れたこの街で制作したものを、こんな風に名付けました。

 

―今回の個展開催までの経緯について、教えてください。

個展については、NYに来た頃からやりたいとは思っていましたが、「皆さんに新作を見て貰う場を作れたらいいな」くらいの気持ちでした。ですが、友人が「どうせやるなら、人が集まるような仕掛けを作った方がいいんじゃないか」って提案してくれたんです。そこで、会場に飾れるようなインスタレーションも作ろうと思って。こちらで出会った人たちにお願いして、「liquid」のジュエリーを身につけて貰い、その手を撮った写真を100枚近く集めました。準備は本当に大変だったけど、撮影や個展を経験できたのは、本当に運が良かった。“個展”とは呼べないくらい、いろんな人の力を借りて実現できた展示会でした。周りの人への感謝しかありません。

今後の活動について

―NYでの経験を経て、今後はクリエイターとしてどのように活動していきたいですか?

ジュエリーデザイナーとして、とにかく、もの作りを続けたいと思っています。あとは、メインは「liquid」ですが、あわよくばフリーでニットの仕事もできたらなと。中途半端、と言われることもありますが、2つともしている方が、自分の中でバランスがいいんですよね。ただ、いつも目標が変わるので、やりたいことはまた変わるかもしれません。常に変化に対して柔軟でありたいと思っています。

 

―最後に、夢を教えてください。

自分のアトリエを持つのが夢です。半分は自分の商品を置くギャラリーで、半分は彫金スタジオ。マリッジリングのオーダーを受けることもあるので、その打合わせなどもできる場所だったら素敵だなと思います。今後もずっと、どんな形であれ、何かを作りながら生きていけたらいいな思っていて、それは多分、その通りになるんじゃないかな。作ったもので誰かが喜んでくれたら幸せで、それが仕事だったらもっと幸せです。あと、基本的には自分のことでがむしゃらになりがちなんですが(笑)、本当に人に恵まれて生きているので、今後はその人たちにも何かを返せる人になりたいですね。

 

彼女はいつも笑顔で、柔らかな雰囲気をまとっている。今回のインタビューと個展では、その柔らかさを支える芯の強さを垣間見ることができた。様々な変化に見舞われ、選択肢が広がるこれからのクリエイターには、このような強さに裏打ちれた”しなやかさ”が大切になのかもしれない。NYで更なる経験を積んだ西田涼子の活動に、今後も注目したい。

西田 涼子(にしだ・りょうこ)

1987年生まれ。2012年にアパレルメーカーで働く傍ら、自身のブランド「liquid」を立ち上げる。2015年よりジュエリーデザイナーとして本格的な活動を開始。これまでに4コレクションを発表、日本とNYで個展を開催している。ブランド名の「liquid=液体」に込められた意味は「形は変わるけど本質は変わらないもの」。

「liquid」公式Instagram:https://www.instagram.com/liquid_acce/

【information】

・2019/3/6〜9:

大阪・梅田のLUCUA1110で「So」・「nozomidesighs」と合同ポップアップに参加

・2019/3/12〜16:

東京・恵比寿のHALOにて「ebony」との合同展を開催(12〜15日はバイヤー限定の予約制。一般公開は16日午後〜17日)