去年初のシングルを出したばかり、弱冠19歳のフランス人ラッパーLean Chihiro(リーン・チヒロ)。

名前の由来はスウェーデン人ラッパーのYung Lean(ヤング・リーン)とそして、日本が誇る映画『千と千尋の神隠し』に由来しているという。『千と千尋』に限らずジブリ映画全般、というよりも日本のポップカルチャーが好きで、それを象徴するように蓮の花と短剣のタトゥーが体には刻まれている。

そんな日本人としては親近感を覚えるチヒロの正体に迫ってみた。

自分で感じた社会不適合的性格から生まれた音楽とファッション

日本で言う中学生の頃から感じ始めた、「周りの人と違う」感覚。初めて書いた曲には、そんな感情を殴り書きしたと話す(今ならもっと内容の富んだことが書けるけどね、とも)。

« Je disais que je n’étais pas comme les autres gens autour de moi, que j’étis dans mon monde, que j’étais comme un alien qui met des masques pour rentrer dans les critères de la société. (…) c’est de la qualité merde. »

「周りと違う、自分の世界に引きこもってる。社会の基準にはまるように仮面をかぶったエイリアンみたいに自分で思う、そんな歌詞を書いたかな。今思うとクソみたいなクォリティだよね。」(CLIQUEより)

青春期にこういった思いを抱いた人は多いはずだ。今業界内でいろんな人に出会い、当時感じた社会不適合的な気持ちが重大ではないことに気づいたからこそ「クソみたいなクォリティ」だと謙遜するのかもしれない。それでも、そんな思いを歌詞に起こして、音楽業界に足を踏み入れられる人は少ないだろう。ポップ音楽を始める感情の大半はこれで、徐々にテクニックが上達し、哲学も成長していく。始まりはそんな誰もが思う不満と光る才能があればこそである。

また、この社会不適合的性格はファッションにも現れ、そこには常に日本カルチャーがあったと話す。

« Je me suis toujours habillée un peu différemment des autres. Après, au collège, on rentre tous dans un moule (…) J’ai toujours aimé les accessoires fantasistes, les costumes, tout ce qui se rattache à la culture japonaise et c’est resté dans mon style. »

「いつも周りとちょっと違う格好をしてた。高校に入るとみんな鋳型に入ったよね。私はずっとファンタスティックなアクセサリーとか服が好きなの。それは全部ジャパンカルチャーに結びついたものだよ。今でもそう。」(CLIQUEより)

鋳型といえど今やストリートに日本のカワイイ文化を混ぜるのも、ファッション的には一つの鋳型だろう。当時の気持ちを殴り書いた歌詞を自分で批判したのもこういう気づきからかもしれない。

チヒロを形成する音楽ルーツ

そんな彼女の音楽のルーツは大部分が母親だと語る。彼女の母は、彼女が幼い頃からありとあらゆるジャンルの音楽を聴かせ教育してきた。ソウル、ヒップホップ、ラップ、ロック、ファンクにそしてジャズ。クラシックがないのが残念だが、そこには日本の音楽も多々あったという。そうして四六時中音楽を聴く生活の中、自分がミュージシャンを目指すのはごく当然で、部屋の中で歌って踊って録音して、それが趣味のようになった。

中でも特に影響を受けたのはSnoop Dogg(スヌープ・ドッグ)。今ではギャングから手を引き世界平和を望む、ヒップホップ界の叔父さんの立場をとる彼だ。Kendrick Lamar(ケンドリック・ラマー)やAnderson .Paak(アンダーソン・パーク)を始め、ヒップホップが再燃する今、スヌープを参照する人は多い。間違いなくギャングスタラップを確立した人の一人だからだ。

「女性」ラッパーと呼ばれることへの嫌悪感

ラッパーといえばやはり男性だ。女性ラッパーと聞くとどこか甘く、果てはラップの間に急に入れられるメロディックな歌声か、オープンなエロティシズムを想像する。

« Le rap féminin, c’est vite résumé à des gros culs et du twerk. J’aimerais surtous qu’il n’y ait plus de catégorie « rap masculin », « rap féminin » mais juste ma catégorie rap. (…) Moi je suis là pour vendre ma musique, pas pour bouger mes seins et on peut tout faire sans les mecs. »

「女性のラップっていうとデカいケツとトゥワーク(女性が低くしゃがんでお尻を動かすダンス)が挙がる。私は男のラップとか女のラップっていうカテゴリー分けはなくなってほしいの。おっぱいを揺らすためじゃなくて、私は自分の音楽を売るためにここにいるの。男がいなくても私たちは何でもできる。」(CLIQUEより)

白人社会での黒人で女性という生まれ。同じ身分の人からはたびたび相談がくる。そんな人たちと話して、彼女たちがありのままの自分を受け入れられるようになってくれるのが彼女の幸せだと話した。

 

チヒロの歌詞は、自分の音楽を聴いてくれる人をフランスに留めたくない理由で全て英語だ。そのおかげか、プエルトリコ系アメリカ人のラッパーPrincess Nokia(プリンセス・ノキア)も彼女の大ファンで、自身のパリでのコンサートに招待したほど。

まだまだタバコが吸える年齢になったばかりの彼女が、今後精神的に、音楽的にどのように進化し世界のヒップホップ好きを魅了してくれるか楽しみだ。

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