1月31日にBerghainにてライブを披露したGazelle Twin, photo from ctm-festival.de

毎冬ベルリンで開催される最大級の音楽フェスティバル”CTM”が、今年も1月25日から2月3日にかけて行われた。20周年を祝う今年はどのようなものだったのだろうか。

リスクを恐れないフェスティバル?

CTMフェスティバルには世界各地から音楽ファンが押し寄せる。プログラムは10月に発表され、全日通し券となるゴールデン・パスは大抵年末には完売してしまう。その白熱ぶりから1月に入ってからもパスや各チケットの再売買が続き、ネット上での詐欺販売も多発するので要注意である。当フェスティバルのためだけに毎年ベルリンへとやって来る常連ファンも多い。一体なぜそんなに人気なのだろう。

1999年にエレクトロニックミュージックのフェスティバルとして創始され以来、発展をし続けてきたCTM。今日ではビジュアルアートや伝統音楽の介入、パンクやロックなどにも渡り、ジャンルは何かと言及することはとても難しい。しかし、CTMのサブタイトルである”Festival for Adventurous Music and Art”(アドベンチャラスな音楽とアートのためのフェスティバル)からは、開催者たちの方向性を読み取ることができる。「アドベンチャラス」とは単に観客がよい音楽を消費するだけではなく、チャレンジのような経験をして欲しいとのこと。ジャンルには囚われず私たちを刺激する音楽を求め続けているのだそうだ。

リスクを恐れず、観客をも挑戦に誘い込むようなフェスティバル。今年もどんな驚きがあるかとつい毎年来てしまうファンが多いようだ。さて、ここからはその内容をより詳しく紹介していきたい。

ベルリンの様々な歴史深いヴェニューに渡って

CTMはベルリンの幾つもの会場に渡り開催されるので、それらの独特の雰囲気や最上級の音響を味わうことができるのもこのフェスティバルの特権のひとつだ。

メイン会場のいくつかはベルリン南部のラントヴェーア運河の周りに点々と所在する。19世紀の荘厳な建物の中にあるカルチャーセンターKunstraum Kreuzberg/BethanienやHAU Hebbel am Ufer(HAU2)という劇場などがそうだ。その通称HAU2(ハウ・ツワイ)と呼ばれる劇場は、床の高さにあるステージを階段式の観客席から見下ろすという構造。CTMのイベント中はそこに無数のクッションが敷きつめられ、観客は座ったり寝転がったりしながら思うがままにショーを楽しんでいた。

Kunstraum Kreuzberg/Bethanien © Sebastian Olivia

そして、欠かせないのはやはり先月にテクノクラブに関する記事でもご紹介した、ベルリン中央部に位置する最高峰クラブのBerghain(ベルクハイン)。ベルリンではトップともいえる力強く素晴らしい音響を持つこのヴェニューでは、今年も一日の締めにあたるクラブイベントが何度も行われた。

さらに別の注目高いヴェニューとしては、ベルリン中心地から12キロほど離れた南東部でシュプレー川のほとりに位置する、1956年から1990年まで旧東ドイツ国営の放送施設であったFunkhaus(フンクハウス)がある。その素晴らしい音響システムの実現された建築物は、現在もクラシックシンフォニーなどの収録場所であると同時に、様々なクラブイベントやライブパフォーマンスの開催場所になっている。

そこにMONOMというスペースが2017年12月に開設され、昨年からCTMのメインプログラムのひとつとして使われている。MONOMとは下の写真にみられるような収容人数400人ほどのスペースで、空中の柱の中に位置する48個のスピーカーと床となる網の下の9個のサブスピーカーから成り立つ4DSOUNDというシステムが用いられている。スピーカーはソフトウェアで制御され、サウンドがあらゆる方向から鑑賞者を囲み身体を突き抜けるような体験ができるという。今年は31日から6度のライブが行われた。

© https://www.monomsound.com/

ジャンルを超えたコンサート

CTMはこの異常な情報過多の時代には珍しく素晴らしいものをまとめあげる力を持つフェスティバルだ” ー The Quietus誌

CTMの驚くべき多様性。ラインナップをみても、現代音楽のチェロ奏者のLucy Railtonから、パンクバンドCocaine Piss、ハウスDJのThe Black Madonna、までと本当に幅広い。では、ここからはいくつかのコンサートリポートをお伝えしたい。

CTMはビジュアルアートにも力を入れており、例えば29日火曜日にはHAU2にて映像と音楽を組み合わせた二つのライブオーディオビジュアルパフォーマンスが紹介された。まずは、声とエレクトロニックを組み合わせるデュオの9T Antiopeのサウンドの振動とRainer Kohlbergerの映像(彼の映像作品は上のビデオ参照)が発する光が観客たちを包み込んだ。2番手のStefan Fraunbergerはトランシルヴァニア地方の教会オルガンの音をベースに作られた電子音楽と教会の情景なども含む実写映像を組み合わせ、音・映像間の時間構成を深く熟考したと思われるパフォーマンスを見せた。映像内にも映っているStefanとその場にいる彼自身を混同させたり、彼が観客に向けてライトで強い光を当てるなど、作品内/外の境界線を越えるようなアプローチも導入され興味深かった。

Setabuhanと手前で格闘ダンスを見せるダンサー Photo © Camille Blake

2月1日にFestsaal Kreuzbergでは、インドネシアのヴォーカリストRully Shabaraと二人のドラマーによるバンドSetabuhanが演奏した。スラウェシ島のアニミズムの儀式からヒントを得たという、テクノのようなモノトーンなビートにRullyの叫び声が絶妙に重なり、神秘的且つ激しいトランス音楽であった。彼らの後にはアメリカのLightning Boltが耳を壊すほどのノイズロックを披露し会場は熱狂した。

2月2日にMONOMでは、4DSOUNDが用いられたその名もSound Scrupture(音彫刻)と呼ばれるイベントが6時間以上に渡って催され、Sofie BirchやAmbáttなどの4人のミュージシャンのライブと他の2作品の放送が各50分ほどずつ行われた。部屋はドアの隙間から入るほんのわずかな光を除けば真っ暗な闇となるよう整えられた。そこに並べられた幾つものマットラーの上で、訪問者たちの大部分は寝転がりながら音に身を任せた。マットラーは暖かくその居心地の良さから、時には本当に眠ってしまい夢の中から音楽を聴いていることさえもあった。音楽はフィールドレコーディングやアンビエント系が多く、部屋全体に広がる音が体まで押し寄せてくるようなときもあれば、逆に片隅に寄った音が少しずつ移動していくようなものもあり、どれも見事であった。

デイタイムプログラム

本記事ではすべてはお伝えできないものの、日中のプログラムも充実している。CTMは、音楽やアートを紹介するだけではなくその社会的役割についても考えさせサポートするという姿勢を持っており、それを後押しするようなインタビューやディスカッションイベント、エキシビジョン(例、下の写真参照)、ワークショップなどが毎年行われてている。今年のテーマは”Persistance (粘り強さ)”であり、音楽とアートとは果てしない探求を要するということに由来しているらしい。参加者たちはこのテーマについて考えたり、意見交換をすることができた。CTMではイベントは全て英語で行われる。より詳しく知りたい方は、ウェブサイトをご閲覧いただきたい。

ドイツのレーベル『Raster』主催の展覧会『Labor』にてRobert Lippok のサウンドインスタレーションとその訪問者 Photo © Sayori Izawa

いかがだったでしょうか。

今回のフェスティバルで筆者は、元々興味のあるミュージシャンを最高の音響や雰囲気の中で聴きさらに好きになれたり、全く知らなかったジャンルのバンドに聴き惚れてしまったり、とそれぞれ違う喜びが得ることができた。そして、CTMとは自分が無知のものにも挑戦してこそ価値があるもの、と納得ができた。音楽やアートに強い好奇心を持つ方は、ベルリン旅行をこの時期にあててみるのもよいかもしれない。

フェスティバル公式ウェブサイト:https://www.ctm-festival.de/news/