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ベルリンの実験テクノシーンにロシア出身の才女と呼ばれる新鋭ミュージシャンがいる。Machine Woman(マシーン・ウーマン)の名で活動するAnastasia Vtorovaだ。4月に初来日が決まったことを機に彼女の世界を覗いてみたい。

様々なエクスペリエンスが溶け込む奥深いサウンド

まずは早速彼女のいくつかのアルバムをご紹介したい。以下のYoutubeから聴けるのはレーベルPeder Mannerfelt からリリースの『For Sweden』というアルバムの中の一曲だ。緩やかなビートが歩むコールドな感覚のエレクトロニックアンビエント。そこにザラザラとしたグリッチ音やノイズのシュワシュワ感が加わり、非常に綺麗なサウンドスケープを描いている。彼女の音楽は大きく分け、ダークな雰囲気に力強いビートの響くインダストリアルテクノと呼ばれることが多いが、この2015年作のアルバムはよりエクスペリメンタル色が強い。彼女のサウンドワークにひとつのジャンル名を与えることは容易ではなさそうだ。英国音楽専門誌『Stray Landings』はこのアルバムを「21世紀のために創られたグレゴリオ聖歌」と描写し高く評価した。

2曲目にはよりビートが効いて踊れる感じのものを聴いていただきたい。以下のYoutubeにアップされているのは『Residency Tape 2』という去年11月リリースのカセットからの1曲。このアルバムには個性の違う4曲が収録され、それぞれがおもしろい表情をみせている。例えば冒頭の一曲は、Anastasiaによると、ダンスフロアの雰囲気を一度壊してリセットさせるような曲なのだそうだ。どこのクラブでも受け入れられるようなものではないが、彼女の挑戦的な試みが楽しめる一本のようだ。インプロ感がありつつ各トラックがとても完成度の高い仕上がりで、彼女の才女ぶりに納得させられる。

これらの奥深いサウンドはどこから生まれてきたのだろう。そして彼女がプレイすると、どんなライブが実現するのだろうか。

1月のベルクハインでの沸騰

Machine Womanは今年の1月25日には、彼女が拠点とするベルリンの世界最大級の音楽フェスであるCTMのオープニングクラブナイトでプレイをした。ベルリンの最高峰クラブと呼ばれるBerghain(ベルクハイン)での一夜であった。この日のベルクハインは、当クラブの世界でレジェンド的に知られる毎週末のクラブナイトとは違い、踊りに没頭するだけではなく音楽をじっくり聴こうという「コンサート的」な雰囲気がより感じられた。特にCTMには世界中から多くの音楽クリエーターが訪れるため、好奇心溢れる耳の肥えたオーディエンスが集まったようだった。

そこでMachine Womanは2番手にライブを披露した。それはまず東欧の伝統楽器のようなエキゾチックなドローン音によって始まった。本物の録音かAnastasiaがマシーンで作り出した音なのかはわからない。前者のHVLの演奏に体を揺り動かしていた観客たちは、ある種の戸惑いをみせた。踊り続けたくなんとか体を揺らすがうまくいかない人、佇んで目を閉じて聴き入る人、一度バーに行きリフレッシュしようとする人など様々であった。しかし40分ほど後、私たちは体を激しく揺り動かしながらすっかり踊り込んでいたのだ。最初に不可解だがオーディエンスを惹き付けていた音は、いつのまにか深くダークな強いビートのダンスミュージックへと変転していた。彼女はどのようにこんなにもうまくいく流れを作ったのだろうと、後から思い出しても不思議である。たった一時間のライブとはいえ、何時間も別の世界を旅してきたような感覚を起こす貴重な体験であった。

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ソビエト生まれの元パンクガール

Machine Womanの音楽が話題になるとき、「cold」や「メランコリック」のような言葉をよく耳にする。確かに彼女のスタイルは活動開始以来様々に変化してきたが、そのどこか「冷たい」感覚は常に耳に残る。彼女は旧ソ連時代のロシアで生まれ、暗さに満ちていた90年代に少女時代を過ごした。その頃のイメージは意識せずとも彼女の音楽に現れてしまうのだそうだ。そして音楽作りはその思い出へのカタルシスにもなっているらしい。

その少女はその後ロンドンへと渡った、彼女はパンクを通して音楽界に入り、当時は多くのノイズパンクバンドでベースをプレイしていた。ある時それに退屈を感じ始めたAnastasiaは、ロンドンの大学での夜間のAbleton(音楽ソフト)レッスンに通い始めたそうだ。それからパンク演奏は完全に止め、毎日のようにマシーンを駆使してエレクトロニックミュージックを作るようになったのだ。それが今日のMachine Womanに至る。しかし、現在の彼女の音楽にもバックグランドであるパンクやCold Waveのニュアンスは感じとれるとよく言われ、それは彼女にとっても嬉しいことらしい。次々と新しいことに挑戦していくなかでも、過去の経験が自分を支えてくれているということだ。

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キャリアが確立されつつある今でも、Anastasiaはできる限り他のミュージシャンやデモテープを聴き研究し続けているそうだ。バックグラウンドから受け継がれた個性と、探求を止まない好奇心が折り合わさる彼女のクリエーションはこれからも飛躍していくに違いない。

また、近年の彼女の音楽は、BPM142またはそれ以上とスピードのあるダンスミュージックへの方向へ向かっているそうだ。そして、録音した自分の声を使いマシーンのような音を作り出すことにも夢中になっているそうで、その傾向は4月13日の東京ライブでも見られるかもしれない。

4月の東京公演、場所は直前告知で謎に包まれる

そんなMachine Womanの日本初公演を実現させるのは『Red Bull Music Festival Tokyo』だ。主催者のRed Bull Music Academy(レッドブル・ミュージック・アカデミー)とは、世界での音楽の芸術性と創造性を高めるために様々な国でワークショップやフェスティバルのシリーズをオーガナイズしている組織である。1998年以来ベルリン、ロンドン、ニューヨーク、サンパウロ、その他数多くの都市に渡り活動し、日本では『Red Bull Music Festival Tokyo』という都市型音楽フェスを開催している。2018年にはJR山手線が会場になるなど革新的な試みを手掛けた当音楽フェスが、今年は4月8日から20日に開催されることが決まった。

Machine Womanがラインナップに入る13日のイベントは、ダンスミュージックの原点でもあるウェアハウスパーティ(warehouse party)の形で行われるそうだ。ウェアハウスパーティとは80年代後半にイギリスで発祥したレイブパーティの原型である、倉庫(ウェアハウス)や廃墟、農場などで不法で行われていたフリーパーティのことを示す。会場は直前まで非公開、と緊張感が高まる。リスクを恐れない才女Machine Womanがどんなライブを披露してくれるのか、非常に楽しみだ。


【Infomation】

Methods and Modulations – A Warehouse Party
日時:2019年4月13日 22:00~5:00
場所:東京都内某所、直前告知
参加ミュージシャン:Marie Davidson、Machine Woman。machìna、Mari Sakurai、Mayurashka
詳細 & チケット:https://www.residentadvisor.net/events/1228848
フェスティバル情報:https://eyescream.jp/music/35964/

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Machine Woman (Anastasia Vtorova)

サンクトペテルブルク生まれ、ベルリン在住
サウンドアーティスト、実験テクノプロデューサー
2013年から活動。2017年に〈Technicolor〉からのEP『Lobster Comes Home』をリリースし注目を集め、その名は世界で知られつつある。
Soundcloud: https://soundcloud.com/machinewoman