フランス人女性映画監督で、ベルリン国際映画祭での受賞歴もあるMia Hansen Love(ミア・ハンセン=ラヴ)。彼女が作り出すストーリーにはフランス映画らしい単調さと、どこかリアルな人間らしさが描かれている。過去に日本でも公開された若いDJの成功から衰退までを描いた「EDEN」や突然25年連れ添った夫から離婚を言い渡された中年女性のこれからを描く「未来よ こんにちは」では幸福とともにその後に訪れる低迷を濃く描いた。そんな彼女の作品からにじみ出る”リアルさ”はいったいどこからくるのだろうか。

自分は何も変わらないのに、時は残酷に進んで行く

https://eiga.com/movie/82205/

フレンチ・ハウスと呼ばれる1990年代フランスの音楽シーンを舞台に、若者の成功と挫折を描いた映画「EDEN」。大学生だった青年が一躍ブレイクする傍ら、私生活では金銭感覚が狂いドラッグに溺れ、恋人も離れていく。それでも変わらず自分の信じる音楽を続けるが、気づけば30歳も過ぎ、次第に時代に取り残されていってしまう。タイトルの『EDEN』は、楽園を意味する言葉である。監督であるミア・ハンセン=ラヴ(以下ミア)はタイトルを決める際、『ロスト・イン・ミュージック』と『EDEN』の二つで迷っていたという。もう戻れない青春時代がを表現したかった為、より深みのある『EDEN(楽園)』が選ばれた。

この物語のモデルとなった実の兄

https://uncannyzine.com/posts/26483

この作品を作る上でミアは実の兄であるスヴェン・ハンセン=ラヴをモデルにし、また2人共同で脚本を執筆した。

当映画の作成に関し、スヴェンはUNCANNYの取材にこのように答えている。

__自身の人生を描いた映画をつくろうと思ったきっかけは何ですか。

まず、これは僕の人生の物語ではなく、その当時の若者と、90年代のはじめにフランスでエレクトロミュージックが生まれたことを描いたものなんだ。ただ、それをそのまま描いても、それは単なるドキュメンタリーになってしまうから、フィクションにするために人物を通して、物語を描きたかったんだ。そして、その人物は僕からインスピレーションを受けた登場人物であったというだけで、自分の人生そのものを描いた物語というものではないんだ。__映画に描かれる成功と挫折という人生における普遍的なテーマは、誰しもが自己を投影しやすいものだと思ったのですが、これからの若い世代に対して映画からどのようなことを汲み取ってほしいですか。

人生の方向性ということについて感じてもらえたらな、と思う。やはり、若い頃は情熱があるからそれに邁進してしまうけど、そこから一歩引いて自分の将来がどうなるかっていうのを考えてもらいたいな。それと同時に、お祭り騒ぎをして遊ぶことは行き過ぎだから、そこまで行き過ぎない真ん中あたりの人生を歩んで欲しいかな。確かに若い頃は、こういうことを考えないんだけど、将来についても何か考えるようなきっかけになればと思う。

__映画の後半部分では、結婚し家庭を持ち始める周囲の人々と、時代に取り残されたDJとしてのポールの状況を痛切に描いていましたが、彼は最後まで孤独ではなかったのは何故なのでしょうか。

確かにこの映画の中でポールが一人でいるシーンはほとんどなくて、一人でいるのは最後のシーンだけなんだ。ここでは、一人になって孤独であるとか、孤独に苦しむとかネガティブなことを表現したいのではなくて、彼が一人になった時にようやく自分について考えることができるようになったということなんだ。今までが自分がやってきたことについて振り返って、前に進むことについてきちんと考えられるようになったというように描いているんだ。(UNCANNYより)

人生の折り返し、突然1人になった

映画、「未来よ こんにちは」では、パリの高校で哲学教師として働く50代の女性が主人公。子供は皆家を離れ、同じく教師の夫と2人暮らしをしていた。ある日突然夫から「好きな人ができた」と別れを告げられたことをきっかけに、彼女の想像していた未来が変化していく。しかしここでも大きなアップダウンは描かず、年老いたワガママな母親の相手をすることや、母の老人ホームへの入所問題、仕事上のトラブルなど日常的に誰にでも起こりうる”思うようにいかない!”が積み重なった日々。時に苛立ったり、泣いてしまったり、それでも彼女のペースで自由に着実にまだある人生を歩んでいく様子が描かれている。

映画制作中、どんな人物にでも感情移入できてしまう

http://cheekmagazine.fr/culture/mia-hansen-love-au-nom-du-frere/

ミアの両親はともに哲学教師をしており、この映画では自身の母を題材にしたという。被写体は暗いが、この映画をダーク映画のようにはしたくなかったと語る。その為コメディタッチで描いたという。なぜならこの物語は本当の孤独についての話であり、夫が自分の元を離れ、子供達は自立し、母親が死ぬ。このようにして自分の世界が崩れていってしまうことはその年齢の女性になるということ。そしてその年齢の女性になることがどういうことかという問いでもある。

まだ38歳の彼女が「未来よ こんにちは」を発表した3年前には自身の年齢と映画内で描く主人公の年齢とのギャップについて、「私は実年齢と自分が感じる年齢感が合っていると思ったことがありません。でもそれが、私の執筆作業の原動力となっています。メガホンを握っている時は現実世界に対する気持ちが遮断されてしまいます。そして、撮ること、書くことをこんなに早いテンポで10年間もやってこれたのは、現実を見失わない為のように感じます。映画を製作している時は、老若男女問わず様々な人間に感情移入できるのです。」と語った。

ミアが生み出したストーリーの中では淡々と物語が進んで行き、日本との文化の違いを除けば、そこに大きな衝撃や非日常はあまり感じられない。というのも、母や兄をモデルにするということは彼女にとっての完全な「日常」がそこにあったからではないだろうか。そして現実世界を離れてしまうほど登場人物に没入してしまうという彼女だからこそ創造できたリアルさなのだろう。

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