フランス人写真収集家トマス・ソーヴィン。北京郊外のリサイクルセンターに埋もれたネガを再利用したプロジェクト「Silvermine」。中華人民共和国の一般市民が撮影した約85万余のスナップショットの集積を編集して新たな角度で紹介する。ゴミの中から発見された新しい価値。これからの新時代へ向けての興味深いプロジェクトを紹介したい。

写真収集家のThomas Sauvin(トマス・ソーヴィン)とは

-Thomas Sauvin(トマス・ソーヴィン)

フランス、パリ生まれ。アーティスト、写真収集家(写真コレクター)、または編集者。中国の北京に2002年から2005年にかけて在住。イギリス、ロンドンの独立した出版社をオーガナイズする組織「Archive of Modern Conflict (AMC)」の一員として2006年からコンサルタントとして関わっている。

彼が北京郊外のリサイクルセンターから集めた匿名の人物が写したと思われる写真の数々は、貴重な現代中国の様子を残す記録として、2013年写真集「Beijing Silvermine」となって「Archive of Modern Conflict (AMC)」を通し出版された。同年、世界で最も大きな写真フェア「パリ・フォト」において「Paris Photo Aperture Foundation First Photobook Award」という賞にノミネートされた。

-約85万余のネガを再利用したプロジェクト「Beijing Silvermine」

中国、北京郊外で収集したおよそ85万余のスナップショットのネガを再利用したプロジェクト「Beijing Silvermine」。まだ中国でデジタル写真が普及する以前の、1985年から2005年までの一般人が撮影したアナログカラー写真のネガの数々は、フランス人写真収集家トマス・ソーヴィンの手によってヨーロッパ独自の目線で編集された。

リサイクル工場で集めたそのキロにも渡る、大量の汚れたネガを米袋に入れて家に持ち帰り、一枚一枚丁寧に見直した写真収集家トマス・ソーヴィン。その編集期間はおよそ10年という長い年月を要した。中国のゴミとして存在していた一般人の記録を別の角度で再評価。記録写真というより記録の再利用写真として非常に価値のあるプロジェクトだ。

現代中国のライフスタイルの記録を別の角度から見直す

トマス・ソーヴィンのプロジェクトBeijing Silvermine」が特に興味深い点は、政治的理由でメディアとして表舞台に中々登場されにくいような現代中国のライフスタイルが、フランス人を通した別の角度で編集し直され、写真集として新たに紹介されたという点である。フランス人のフィルターと謎めいた中国の日常風景。異なる文化の相互作用が新しいヴィジュアルのプラットホームとして再構成された。

急速な経済成長などの理由で、世界的に中国との国家間同士の交流が重要になってきている現在。一般市民のスナップ写真を通して見る現代中国の内部情勢とは。トマス・ソーヴィンの見せた国籍を越えても共感することができる、集合的な記憶の数々は、私たちに一体何を伝えようとしているのか。そこから見える楽しそうで私たちとあまり変わらない人との交流の姿は、今後の中国との関係性をより縮めることになりそうな興味深い共通性がある。一般的に言う中国への固定概念や偏見を新たに書き換える、トマス・ソーヴィンの10年という長い月日を要した試み。写真集Beijing Silvermine」は今後のグローバル化と中国の経済的世界進出の未来に多大な影響を与える。

自分の撮った写真ではないネガを再評価して新たに紹介するプロジェクト

写真収集家トマス・ソーヴィンのように、自分の撮った写真ではないネガを再利用して復元し、さらに新たな価値を付け加え発表する動きはここ数年頻繁に見かけられるようになった。

デジタルの写真家が進み、誰でも簡単に高画質の写真が撮れるようになった現代。写真家として本当に大事な価値とは何かが再検討されている。特に、昔のようにアナログ写真のネガを暗室を使って手作業でプリントする技術や、その際に生じる自然発祥の化学反応などで心を揺るがすような感覚はほとんどと言っていいほど消滅しようとしている。

写真収集家トマス・ソーヴィンの「Beijing Silvermine」と同じような意図を持って企画されたその他のプロジェクトを紹介したいと思う。

-Vivian Maier(ヴィヴィアン・マイヤー)

映画「ヴィヴィアン・マイヤーを探して」(2013年)にもなって紹介された。生涯一度も自分の写真を発表したことのない彼女のネガを、この映画の監督でもあるジョン・マルーフが発見し再評価した。

-Andrea Guastavino(アンドレア・グアスタヴィーノ)

イタリア、フィレンツェで発見された一般市民が撮影したと思われる写真のネガを写真家アンドレア・グアスタヴィーノが再構築。観光地化が進むイタリアの都市の本来の姿を展示会「Re Vision」にて新たな角度で紹介した。

instagram:

@andreabenedettoguastavino

@zoneutopichecreative

テクノロジーの進歩は、写真やアートなどが地道に作り上げてきた古い美の価値を覆す。写真の古い価値は良い意味でも悪い意味でも、今後どのように書き換えられて行くのだろうか。トマス・ソーヴィンの「Beijing Silvermine」のようなプロジェクトは今後もさらに登場して来るだろう。写真の未来を見直す動きにこれからも目が離せない。

 

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