【対談】ヌルベット代表・荒木浩二×吉田圭佑 ”スポンサーではなく共犯者”と語る2人の関係性とは?

2018年11月、ファッションに関わるクリエイターを専門にマネジメントする日本初のエージェンシーが設立された。その名も『nullbet(ヌルベット)』。そこには、東京コレクションで毎回大きく注目を浴びているような人気ブランドも多く所属している。彼らは何故、ヌルベットという会社を立ち上げたのか、そしてデザイナー達は何故この会社を必要とするのか、代表・荒木浩二さんと所属デザイナー・吉田圭佑さんに話を伺った。

(右:吉田圭佑、左:荒木浩二)

 

デザイナー達との交流の中で感じた業界の問題点

―まず始めに、ヌルベットという会社を立ち上げることになったきっかけを教えて下さい。

荒木:元々は、ファッション業界とは無縁の業界に居たのですが、ファッションビジネスにはまだ可能性があるなということに気が付いて、ファッションをテーマにした事業が出来ないか考えるようになりました。そして、一昨年の4月に服作りをする人のためのシェアスペースを作ったことが始まりです。

会員になれば誰でも使えるので、「一般の人達に使ってもらえればいいな」という気持ちで作ったんですけど、実際には吉田君のようなプロのデザイナーが使ってくれて。専門学校を卒業したばっかりの子とかデザイナーを目指したい若者って、学校を卒業すると作業するスペースがないことに、交流の中で気が付いたんです。また、デザイナー1人で多くの業務を担っているケースも多く、場所だけじゃなく他にも多くの問題があることを知りました。だから場所以外にも補完できる部分があるんじゃないかなって思って、彼らにこういう会社を立ち上げるからジョインしないかと話をしたら興味を持ってくれて、今一緒にブランドを手伝わせてもらっています。

吉田:僕自身、スペースの確保には苦労していたんですよ。ブランドの規模が大きくなるにつれて、もっと広いスペースが必要になってきますし、スタイリストさんなどの対応を考えたときに都心に近い方が良い。でも十分なスペースを確保できる場所を都心に借りようと思ったら、とんでもない値段になっちゃうじゃないですか。元々友達と一緒に参宮橋にアトリエを借りていたんですけど、狭すぎてどうしようもならなくなっていて。荒木さんの立ち上げたシェアスペースを使わせていただくようになったのが荒木さんと出会ったきっかけでした。

 

―「彼らと話す中でスペースの確保以外にも様々な問題があることに気が付いた。」と荒木さんは仰っていましたが、吉田さん自身どんなところに苦労を感じていらっしゃいましたか?

吉田:生産管理とか、クライアントワークの対応やスケジュール管理などですね。やっぱり時期が重なってくると、手薄になることもありますし、単純に仕事の数が増えれば増えるほど1人でこなすのが大変になってきて。お客さんのオーダーが増えたりだとか、洋服の型数が増えたりすると、自分だけで対応するのはキャパオーバーになってきているという問題は感じていました。

―これまでのKEISUKEYOSHIDAは東京ニューエージとして合同ショーで発表されていたり、PARCOさんなどの企業に支援してもらいながら運営していた部分もあると思うのですが、それらの支援とヌルベットとの違いはどんなところでしょうか?

吉田:例えばPARCOからの支援は、若手デザイナーを輩出することを目的としたスポンサードでした。いわば無償の愛のようなサポートです。それに対してヌルベットは、ヌルベットがやりたいことに対しても僕はコミットしなければならない。お互いがお互いのために働きかけないと成立しない、まるで共犯者みたいな関係性だなって僕は捉えています。

日本初のデザイナーエージェンシー、その仕組みとは?

―では次に、ヌルベットの具体的な支援についてお伺いしたいと思います。デザイナーと共にブランドを運営し、さらに盛り上げるために活動をされていると思うのですが、ヌルベットとデザイナーの仕事の棲み分けはどのようにされていますか?

荒木:その棲み分けが凄く難しくって、現在も試行錯誤しながら運営している感じです。クリエイションはデザイナーのものなので、そのブランドに対するデザインや考え方はデザイナーにしか出来ない。それ以外の部分をどれだけサポートできるかが、ヌルベットの存在意義だと考えています。資金的なことはもちろん営業戦略、PR広報戦略など。会社組織におけるバックオフィスと言われている部分ですかね。

ただ、単純にクリエイション以外の部分を担うっていうと、経理サービスや代行業者にアウトソーシングすればいいだけの話になってしまう。だからさっき吉田君が共犯者って言ってくれたように、事務的なことだけではなくて、大げさな話ですが一緒に新たなムーブメントを起こしたいなって思いながら経営しています。

KEISUKEYOSHIDA FW19

―先月行われた東京コレクションでは、ヌルベット所属後初のコレクションとなったと思うのですが、コレクションを制作する上で何か変化する点はありましたか? クリエイションに充てられる時間も以前よりは増えたのではないでしょうか?

吉田:ヌルベットはまだ始まったばかりで、荒木さんもファッションショーが出来るまでの仕組みや生産の流れが完全に理解できているわけではなかったので、今回はヌルベット所属によって時間が増えたわけではなかったです。共有しながらの時間をかけて進めていきました。でも資金面だったりの心配事はおかげで減りましたし、今後よりもっと良い影響が出てくるんじゃないですかね。

コレクションを作るっていう作業においては、むしろ、いつも通りやらせてもらえて感謝しています。何かに所属したり、環境が変化することによって、色んなしがらみが出てきてもおかしくないと思うんですけど、最大限の力を発揮させてくれる自由度があったと感じています。

 

―今回は、どのようなテーマで行ったコレクションなのでしょうか?

吉田:シーズン重ねて色んな人との関りが増えていく中で、「KEISUKEYOSHIDAってこうだよね。」とか「吉田君はもっとこうしたら良いのに。」とかって言われる場面が増えてきて、そんな中で段々、外から見られる自分の姿だったり、人から見られたい自分の姿みたいなものになろうとしてしまっている自分が居たんですよね。でも、その姿と本当の自分にどこかズレがあるようにも感じていて、いったい自分って何なんだろうって自分を見失いそうになった時期があったんです。そんな時にたまたま小学校の先生と飲む機会があって。そこで、自分は昔こういう子だったんだとか、昔はこんなことしていたなとか色々思い出したんですよね。僕が通っていた学校って、キリスト教系の学校で毎週礼拝の時間があったんですよ。無宗教の僕からしたら、最初は「早く終わんないかな」とかばっかり考えているんですけど、終わってみると何だかスッキリしている。1時間黙っていなければいけなかったあの時間は、自分自身と向き合う時間だったのかもしれないと思ったんですよ。あの頃の礼拝の感覚と今の気持ちは少し重なる部分を感じて。

だから今回は、子供の頃の礼拝の質感を軸に、自分の人生やクリエイションも振り返りながら、“透明人間みたいになりかけているような子たちが、そこに抗って自分自身に向き合うことで、自分を知りたい、さらけ出したいっていう気持ち”をテーマにコレクションを制作しました。

―実際にコレクションを終えられて、かなりの反響があったと思うのですがいかがでしょう?

吉田:まず、会場に入れなかった人多かったですよね…。インビテーションはいつも通りの枚数を配布したんですけど、かなり予想以上多くの方々にお越しいただいて、入れなかった方々には本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです。でも、それだけいつも以上に今期は期待してもらえていたのかなっていう嬉しさもありました。最後ランウェイで挨拶した時も、何かいつもと違うお客さんの熱量を肌で感じたし、いつもプレスの人しかいない囲み取材の場に一般の子達が沢山いて、聞いてくれていて、それは本当に嬉しかったですね。

 

―展示会では、そんなお客さんの生の声を耳にすると思うのですが、どのような反応を伺いますか?

吉田:コレクションが格好良かったとか、この服が気になっていたとか、色んな感想を貰いますね。今回、クリエイションを上げる意識も強かったし、デザインにも凝っているので、値段もいつもより上がっちゃっているんですけど、変わらず手に取ってくれるお客さんがいることや、新しく来てくれるお客さんも多いことを嬉しく感じています。

デザイナー自身が自分のブランドをどうしていきたいか

―KEISUKEYOSHIDAはショー映えする分、実際にリアルな面で言うと少し着づらいのではないかという印象も受けます。そこは、お2人も感じる面がありますか?

吉田:まあ、「本当はもうちょっとラインナップ広げられたら良いんだろうな」とは思いますね。でも、だからといって別に普通のものを作っても意味はないなって思いますし、展示会で若い子たちが沢山来てくれる姿を見て感じるのは、純粋に楽しそうなんですよ。それを着た時にどんな気持ちになるか、どんな自分になれるかが、僕はファッションの大事なところだと思っていて。パッと見で着づらいかもって思われてしまっても、気になってもらえるような服が出来ていれば、これを見てみたいとか着てみたいって思ってもらえるだろうなって思うし、むしろ結構良いなって感じで。着た時に新鮮な気持ちになれたり、自分だったらこう着るみたいな発見があったり、何かしらの心境の変化を生み出せることが大切だと思うんです。

荒木:私もたまに「誰がきるんだろう」って思うアイテムもありますけど、コレクションブランドのファーストルックって他のブランドでもビックリするようなものが登場することもありますし、自分が今まで知らなかった世界でもあり、ファッション業界って凄い世界だなって思うようになりました。KEISUKEYOSHIDAってヌルベットに所属する3ブランドの中でも、突出して攻めているデザインなんですよ。だからこそ、仕事においても社会においても協調性が重要視される今の日本で、KEISUKEYOSHIDAの服が広く売れ始めたら面白いと思うんですよね。「目立つ服はちょっと抵抗が…」っていう世の中から、「自分が好きなら良いじゃん!」みたいな空気感になればいいなと。私はファッションとしてはもちろんですが、マーケティング的な意味で凄いポテンシャルを感じています。

―「もっとラインナップを増やしても良いかも」という話がありましたが、吉田さんに対して、もっとこういう服作って欲しいと感じることはあるのでしょうか?

荒木:私は何も言わないっていうか、仮に思っていても言うべきじゃないと思うんですよ。クリエイションはデザイナーのものだから。デザイナー自身が自分のブランドをどうしていきたいかだと思います。今回、販売価格も上がっているにも関わらず、変わらず手に取ってくれている人がいることは、凄く有難いこと。もちろん売れなかったら、「売れるもの作ってよ!」とは言いますけどね(笑)

 

吉田圭佑、ヌルベットが目指す先

―ヌルベットに所属したことにより、KEISUKEYOSHIDAというブランドを今後どのようにしていきたいですか?

吉田:今までだったら自分1人で判断して行動しなきゃいけなくて、これをやりたいけど時間的に無理かもって思ってしまうこともあって。でもこれからは、どうしたら実現できるか一緒に考えてもらえたり、動いてもらえたりっていうチームワークの中で手段も増えるし、可能性も増えていくようになると思うんです。だからヌルベットに所属したことによって、今までのフォーマットから外れて、よりやりたいことを実現できるようになればいいなって。より新鮮なクリエイションを追求できるんだろうなって感じています。

―5年後10年後の目指すブランド像でいえばどうでしょう?

吉田:遠くのビジョンで言えば、本当に分からないですね。今思っていることなんて、どうせすぐ変わるんだろなって思いますしね。KEISUKEYOSHIDAのクリエイションもそうですけど、コロコロ変わるんですよ。たとえ一貫性がなくても、その時の感情を大事にすることを意識しているので。ただ純粋に、その時やりたいなと感じたことをちゃんと行うことを続けられたらいいなとは思っていますね。その中で、受け手の人のブランドに対する共感がどんどん広がっていって、気が付いたら社会や人に対して何らかの影響を与えられるくらいになっていたら、それは良いですよね。そういう意味では、ちっぽけなものだとしても何かしらの価値観そのものを変えられるようなブランドになりたいと思っています。

 

―最後に、ヌルベットは昨年立ち上がったばかりですが、今後どのように事業を拡げていきたいですか?

荒木:ヌルベットはファッション系クリエイターのエージェンシーなので、会社とか事業の規模を大きくするために、一番簡単なのはクリエイターを増やすことだと思います。でも、誰でも良いから増やせば良いと思っているわけではなくて、吉田圭佑ような面白いクリエイターを求めています。単純にファッションが好きだからとか、アパレル業界をこうしたいみたいな発想ではなく、属性が近いクリエイターが同じ場所に居ることによって相乗効果が発揮されることがあると思っていて。彼らの頭の中にある面白いアイデアを具現化することが出来れば、おのずと会社は大きくなっていくんじゃないかなって思っています。だから、“今までにないもの”っていうチープな言葉でしか今は表現できないんですけど、それを目指しているのは間違いない。そのために、結果を求めてこれから色んなことを仕掛けていけたらって思っています。所属するデザイナーやヌルベットの今後に注目してもらえれば嬉しいです。

荒木浩二(あらき・こうじ)

大手通信企業やテレビ番組制作会社を経て、2016年からファッションFABスペースの立ち上げ・運営に携わる。そこでファッションデザイナー達と交流をもち、ブランド運営の問題点を感じたことをきっかけに、2018年11月、日本初となるファッションクリエイターのエージェンシー『nullbet inc.』を設立。現在、KEISUKEYOSHIDAを始めとする複数のコレクションブランドが所属している。

 

吉田圭佑(よしだ・けいすけ)

1991年生まれ。立教大学文学部卒業。ここのがっこう、エスモードジャポンを経て、2015年に『KEISUKEYOSHIDA』を設立。2016年春夏シーズンより東京コレクションに参加。

People

F-MAGAZINEは、世代をリードするクリエイターやアーティスト達を紹介しています。



VIEW ALL >