photo from sonic protest facebook

ソニックプロテスト(Sonic Protest) とは、パリに2003年から存在するノイズやエレクトロニックミュージックを軸とする壮大な実験音楽のフェスティバルである。毎年春に2週間程に渡り開催され、今年も3月末から4月初めにかけ盛り上がりをみせたばかりだ。本記事では当音楽フェスの歴史にも触れながら、いくつかの貴重な瞬間をレポートしたい。

歴史に残るライブの数々

創始以来オーディエンスの数は年々膨らみ、ミレニアル世代の顔も大幅に増えたソニックプロテスト。オーガナイザーのArnaud Rivière自身がDIYノイズミュージシャンであり、その内容はエレクトロニックやノイズを中心にするものの、ポップやダンスミュージック、世界の伝統音楽までと幅広さを見せる。また、同じ週に二人以上もの偉人を地球の裏側から呼んでしまうような豪華なラインナップの実現力にも驚かされてしまう。

2016年には、Damo Suzukiがヴォーカルを務めていたドイツのレジェンド的ロックバンド『CAN』のドラマーJaki Liebezeit(ヤキ・リーベツァイト)が、同じくドイツの巨匠バンド『Faust』のシンセ奏者Hans Joachim Irmlerとデュオを披露した。後から思えば、それはリーベツァイトが死去する9ヶ月前のフランス最後での公演となるライブであった。

また同年には、アメリカのEllen Fullman(エレン・フルマン)が、フランスでは初めて1980年作の『Long String Instrument』というとても長い弦で作られたインスタレーションを用いた演奏をするために来るなど、ソニックプロテストは音楽ファンをあっと言わせるようなことを毎年のように実現してしまう。以下の画像はコンサート開始直前に会場であるサンメリ教会内を30メートルに渡り張られた弦を眺めるオーディエンスの姿だ。中列左側には観客として来たエリアーヌ・ラディーグの姿も見られる。

© Sayori Izawa

また、ソニックプロテストの成功は会場それぞれの独特なエネルギーにも支えられているのかもしれない。創始時のアンスタン・シャビレ(Instants chavirés)に始まり年々と数を増やしていった会場の中でも、サンメリ教会(Église Saint Merry)は欠かせない場所のようだ。すぐ近くのノートルダム大聖堂が2019年4月に火災に見舞われてしまったばかりだが、サンメリ教会もパリの由緒あるカトリック教会の一つだ。神父が現代アートと音楽に深い関心があったことを機に、2010年からBabbel Productions主催のイベントが定期的に行われるようになり、今ではパリの現代音楽シーンには欠かせないスポットとなった。ポンピドゥーセンター(国立アートセンター)からStravinsky噴水を囲むようにIRCAM(現代音楽研究所), サンメリ教会と並び、アートと音楽が交錯する界隈ができている。

そのサンメリ教会へ今まで日本からは、ノイズ界では世界でもトップアーティストであるMerzbowの名で活動する秋田昌美、そして灰野敬二の二人が出演している。時に音が響きすぎると批判されることもある当教会だが、彼らの演奏とはとてもよく調和していたようだ。2012年には灰野敬二のパーカッションに教会の複雑な音響が素晴らしく適応し、2014年にはMerzbowファンの間では彼の今まででいちばんのコンサートだったと言われる伝説のライブが起こっている。そのMerzbowの貴重な映像がYoutube上に見つかったので以下に掲載したい。

今年の巨匠たち

音楽史上に名を残す巨匠としては、今年はまず70年代から活躍するニューエイジ・ミュージックの先駆者Suzanne Ciani(スザンヌ・チアーニ)が3月30日に招かれた。今年で72歳になる彼女は、貴重なモジュラーシンセBuchla 200とともにアメリカから遥々とやって来た。彼女は、稀な機会に緊張と興奮を見せる観客たちを、フランス語と英語を混ぜながら「リラックスして聴いてください」と座らせ演奏を開始した。Echangeur(エシャンジャー)というパリ郊外Montreuilに立地する会場は、ほぼ正方形に近い大きなホールで、各角に設置された4つのスピーカーによりオーディエンス全員がどこにいても音に包み込まれるような音響が実現された。その少しレトロ感のあるミニマルだが表情豊かな曲たちはみなを楽しませ、時に何か機械の問題で少し戸惑うスザンヌに観客から励ましの声がかかるなどの一体感も高まっていた。演奏後には彼女のマシーンを間近で見ようとファンがテーブルへと押し寄せた。

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また、この日Echangeurで8時間近く続いたイベントは、若手ミュージシャンの『Lemones』や『LES STATONELLS』、『THE COOLIES』などのアコースティックとエレクトロニックがうまく混ざり合うバンドたちが、それぞれ似すぎず遠すぎず心地良いラインナップを繰り広げていた。

4月4日にはニューヨークのNOWAVEの女王と呼ばれる歌手Lydia Lunch(リディア・ランチ) が Marc Hurtadoとのユニットを組み登場し、2016年に亡くなった伝説のパンクデュオ『SUICIDE』のヴォーカルAlan Vegaの曲を追悼を込めて歌った。このライブは、3年前に出演したAlan Vegaの相方Martin Revの思い出の舞台にも共鳴するかのようだった。最後には激しいアンコールがかかったが、彼らはステージには戻って来てはくれなかった。以下の動画は今年のものではないが、同じ曲を披露していてイメージとしてご覧いただける。

4月5日、エリアーヌ・ラディーグが『France』とともに

早くからチケットが完売し、悲しくも詐欺販売も発生してしまった4月5日のコンサートには、Lydia Lunchのいた前日に引き続き700人近い観客がサンメリ教会に集まった。その日の予定は本誌でも去年紹介されたドローン音楽の先駆者エリアーヌ・ラディーグの作曲を演奏するピアニストのFrédéric Blondy(フレデリック・ブロンディ)とミニマルロックバンドの『France』を含むまさにヒプノティック感の強そうなラインナップ。既にミュージシャンを知っていたとしても、教会のパイプオルガンが使われることやその音響により一体どんな一夜になるかと各自が期待を高めていた。

© magouka

会場では、一見本当にコンサートに使われるかと疑ってしまうような埃除けのカバーが掛けられたオルガンが上部に確認できた。オルガン下の床に敷かれたシートはクッションで埋め尽くされ、開場後間もなく観客でいっぱいとなった。ブロンディは観客への挨拶を済ました後、そのカバーの裏側へと上り、姿は見えなくなってしまった。開場の照明は最小まで落とされ、演奏が始まった。そして、何とも言えない静寂な音楽時間が流れた。

その日の最後を締め括ったのは『France』であった。『France』とはYann Gourdon (ハーディ・ガーディ:仏民族楽器), Jeremie Sauvage(ベース), Mathieu Tilly(ドラム) の3人から成るバンドだ。オーヴェルニュ地方の民族音楽の響きやテリー・ライリー、『Can』のニュアンスを併せ持ちつつ、トランス(Trance)を突き詰めている。彼らの音楽は日本でも間違いなく良い反響を得ると思われるが、来日はまだ実現していない。

『France』のコンサートはいつも長くヒプノティックな一曲のみ演奏と毎回似ているが、どこか中毒を起こすようなところがあり、一度ハマると何度でもコンサートに通ってしまう。当日も演奏開始時には忠実なファンたちが前列のミュージシャンのすぐそばに押し寄せたようだった。画像にも見られるようドラマーのMathieu Tilly は音に集中するためか顔を覆った姿でドラムを打ち、ベース奏者のJeremie Sauvageはいつものようにステージ下で観客に埋もれながら演奏した。その前部の熱いオーディアンスの中に混じって聴くと、なかなか身動きは取れなくなってしまう。しかし、ふと彼らのサウンドがこの教会全体をどのように響き渡っているのかが気になった。人混みからの脱出は無理であったが、後に敢えて教会の後部などで聴いた者たちに話を聞くと、遠くへと響き渡った音は間近のものより興味深かったという。そしてこのライブは、特に後半から繊細なフィードバック音がくっきりと浮かび上がり何層にも重なっていく様子が、まるで大勢のオーケストラを聴いているような錯覚を起こす不思議なものだった。終了後に今回は特別に感動したという声を何度も聞いた。

© magouka

いかがでしたでしょうか。パリで留学や旅行をされる方は、ポンピドゥーセンターなどで毎日観られる展示も興味深いが、教会でのコンサートのような、その場その瞬間にしか味わえない貴重な芸術を探し求めてみるのもよいかもしれない。

また、今回オルガンを演奏し、サンメリ教会でのコンサートのオーガナイズに携わるフレデリック・ブロンディは、2017年に京都のアーティスト・イン・レジデンス『ヴィラ九条山』に参加し半年間京都に暮らしたり、Babbel Productionsの活動を日本に広げようとするなど、年々日本との距離を縮めている。日本でのイベントも近々実現するのではないかと楽しみだ。

 

【Infomation】

– Babbel Productions主催のサンメリ教会のコンサート情報:rendezvouscontemporains.com(現時点仏語のみ)
– ソニックプロテストWebサイト:sonicprotest.com(仏語のみ)
-フレデリック・ブロンディWebサイト:www.fredericblondy.net/

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