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音楽ファンなら、夏と言えばどこか日常とはかけ離れた場所で音楽にどっぷりと浸かる数日間を過ごしたいものだ。特にエレクトロニックミュージックに思い入れのある方には、毎年8月末にベルリンで開催する本フェスティバルはよい候補のひとつになるだろう。

23年間の休止を経て復活した伝説のフェスティバル

Berlin Atonal(ベルリン・アトナル)は、82年にベルリンでディミトリ・ヘーゲマン(Dimitri Heggemann)により創始された。当時、東西ドイツ国境のすぐ西側のクロイツベルク(Kreuzberg)区で、冷戦期の孤立主義に反抗するかの如く、ポスト・インダストリアルで前衛的な音楽イベントとして力を発揮していたという。そして、ベルリンの壁は崩壊し、フェスティバルは1990年から長い休止に入ることになる。その間、ヘーゲマンはその後ドイツとヨーロッパのテクノシーンに多大な影響を与える事になる伝説のクラブ兼レーベルのTresor(トレゾア)の創設に着手した。当フェスティバルは2013年に新たな3人のキュレーターにより復活。2006年からはクラブTresorも移転した『Kraftwerk Berlin(クラフトウェーク・ベルリン)』を会場とし、実験エレクトロニック / テクノを軸とした、より現代的なスタイルで巨大なアトナルマシーンは再起動したのだ。

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エレクトロニックの聖堂と呼ばれる『Kraftwerk Berlin』とは?

当フェスティバルの会場は、ミッテ(Mitte)区のシュプレー川のほとりにそびえ立つ元発電所の『Kraftwerk Berlin』だ。工場跡地から改装されたアートスペースの多いベルリンの中でも、必ず知るべき場所のひとつである。まだ明るい夏の夕方、金属ドアを通り抜けるとまずそこに滞っていた冷たい空気と暗闇が出迎えてくれる。ショーのライティング効果のためのスチームも手伝い、目が慣れるまではどんな場所に着いたのかわけもわからずただ歩き彷徨う者も多いようだ。何よりも巨大さが凄い。その無機質で広い建造物の中をパワフルなサウンド響き渡り、残響が次々と生まれる。吹き抜けとなった部分もあり、幾つもの階段で繋ぎ合わされた各階の間を光が交錯する。

メインステージは最上階に位置する。『Kraftwerk Berlin』の特徴を最大限に活かした音楽フェスであるAtonalフェスティバルは、A/V(オーディオ・ビジュエル)パフォーマンスに力を入れている。Robin Fox(2018年出演)が操るようなレーザー光が最上階全体を突き抜けるライブや、メインステージに下げられた縦長のスクリーンに流れる映像がキーアイテムとなったコンサートなど、有名ミュージシャンとビジュアルアーティストのコラボレーションが数多く見られる。また、上下の写真にも見られるよう柱の列にスペースが軽く仕切られる構造なので、敢えて残響の多いサイド側でステージから斜めに差し込む光を浴びて寝転びながらチルアウトするのもありだ。また、サイド側や一階のあちこちには暗闇に引き立つインスタレーションがサウンドとともに絶え間なくアートを創り上げている。

日中の『Kraftwerk Berlin』内 © fr.traxmag.com

1階に位置するStage Null(ステージ・ヌル)も欠かせない場所で、多くのA/Vライブが繰り広げられる。周りのバーなどとの仕切りはないが、ステージ前に人が押し寄せるとよりアーティストに密着した空間が出来上がり熱いライブが堪能できる。また、プログラム上では目立たないが、実は発電所時代の操作室もフェスティバルに使われており、2016年にはその機械だらけの部屋にさらに多数のモジュラーシンセが持ち込まれ、ジャムセッションが続いていた。ぜひ探りに行ってみてはどうだろうか。

24時ごろには、フェスティバルはクラブタイムへとシフトし、Tresorに人波が流れて行く。Tresorは当発電所跡地の地下に位置している。メインとは別の入口からかなり長いトンネルのような通路を通り抜けると、その重低音を凝縮させるような天井の低い音箱にやっと辿り着くことができる。Atonalのプログラムは毎日朝まで続くので、時間を忘れ気がつけば明るくなり始めた空を見ながら帰るのが気持ち良いかもしれない。

このように、巨大な船艦内を探検するように様々なスペースを毎日少しずつ発見していくのもBerlin Atonalの醍醐味と言えるだろう。

アジアからの活躍

Berlin Atonalにはもちろん毎年アジアのミュージシャンやアーティストも参加し、独自の感性からオーディエンスを印象づけてきた。

2017年には、上海出身ベルリン在住、ノイジーなインダストリアル・テクノのヒロインと呼ばれ、近年著しい飛躍を見せているPan Daijingが出演した。パフォーマンス性が強くライブで見るべきアーティストだと大きな注目を集める彼女が自身の歌声と官能的な映像作品を組み合わせた『Fist Piece』を披露した。

日本からは、Mutekフェスティバルでも話題を呼んだ東京在住の若手奇才アーティストShohei Fujimotoが、昨年2018年に上記にも記述したA/Vスペースにてレーザー光と鏡を用いたインスタレーション『Power of One Surface 』を発表し、詩的でミステリアスな傑作だと各誌で絶賛された。

また、意外だが当フェスティバルのオフィシャルビデオ制作を任されているのも、日本人の映像作家Hiroo Tanakaである。彼の昨年の素晴らしい映像記録はこちらからご覧いただける。

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今年は8/28から9/1に開催

今年のラインナップも5月から徐々に発表され、8月中には完全なプログラムが公表されるようである。第一次告知で発表されたプログラムとしては、ベルリン在住DJ/プロデューサー、既存の音楽概念も壊して止まない進歩し続けるObjekt (TJ Hertz)がアメリカ人アーティストEzra MillerとA/Vパフォーマンスをコラボレーションする。フランスからは、パリ国立美術学校出身の、音、言葉、絵画、インスタレーションなど様々な素材を通しコンテンポラリーアートと実験音楽の対話となるようなクリエーションを追求してきたFélicia Atkinsonのパフォーマンス、などがある。

また、大阪出身、2014年に日本テクノシーンを代表するDJ Nobuに才能を見出されたことを機に、その後世界で名が知れ渡るようになったという行松陽介(Yousuke Yukimatsu) が、2017年以来の2度目の出演をすることが決定。DJとしての情熱、そしてその場を圧倒させる存在感から、世界中のオーディエンスを惹き付けてきたという彼のプレイにかなりの期待ができる。

全日通し券は早くから完売してしまっているが、各日チケットや完売の場合の追加や再売チケットについてなど随時情報がアップデートされるので、下記のメディアをこまめにチェックする事をおすすめする。心地よい8月のベルリンを過ごし、夏を締めくくるには最高のBerlin Atonal。近年に一度でも足を運んでみてはどうだろうか。

【Berlin Atonal】
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