今回ご紹介するのは、モデル活動にとどまらず多岐にわたって活躍する小谷実由さん。
彼女は文章も書くし、写真も撮る。そして彼女が愛する喫茶店についての思いや、モデルとしての 活動について語っていただいた。
—年齢は?
27歳です。
—ご出身は?
東京の葛飾区です。下町ですね。
—モデルの仕事はいつから始められましたか?
この仕事は14歳からやっていて、始めたての頃は雑誌やCMに出ていました。
—モデル以外のお仕事をしはじめたきっかけについて教えてください。
東銀座にYOUっていう喫茶店があるんですけど、そこの 看板がすごく好きで。たまたま平野紗希子さんと一緒に取材に伺ったときに「この看板がブローチ になったら絶対可愛いよね」という話をしていて、それを実現したのがきっかけです。
—それから喫茶店に関するお仕事をするようになった?
Instagramで「#喫茶部」というタグがあって。そのタグを付けて、インスタに喫茶店の写真を投稿していたらそういったお話をいただくことが増えました。「#喫茶部」のタグはいろんな人の行っている喫茶店を見ることができるので、参考にしています。
—喫茶店にはほぼ毎日行かれているんですか?
いえ、ほぼ毎日は行けないです。休みの日には行きたい喫茶店に目掛けて行くということもするけど、毎日行かなきゃいけない場所という感じはなくて。でも、ふと行きたくなるものなので、結果としてよく行くことにはなっているかもし れない。コンビニ行く、と同じくらいの感覚です。
—喫茶店に惹かれるところは?
元々昭和の映画やファッションが好きだったので、そういう雰囲気を気軽に体験できるものとして、喫茶店に興味を持ちはじめていました。内装や雰囲気にすごく惹かれます。デザインはもちろんなんですけど、(壁を指して)こういう、多分タバコのヤニでくすんだ色とか、ライトの熱で焼けている部分があったりだとか、積み重ねてきた時間をところどころで感じることができる。
みんなに親しまれていて何十年も残っているものには愛される理由があるから、そういうところにロマンを感じます。最近の技術はいろんなものを本物のように再現することができるようになっていると思うんですけど、年月が積み重ねてきた雰囲気は再現できないな、と喫茶店を見ていると思います。
何十年、何人もの人が来て、ここでいろんなドラマがあって、そんなことがひとつの空間の雰囲気として残り続ける気がします。
—そういうものを個人的に独占したい、という気持ちはありますか。
正直、あります。昔は好きなものとか、自分がやっていることを教えたくないと思うような性格だったんです。でも、いろんなところで、映画とか、それこそ喫茶店とか「こういうものが良かっ た」と私が言ったときに、誰かがそれを体感してくれて、その人に何か少しでも影響があるというのがすごく嬉しいことなんだ、と気づいて。
影響ってほど大きいものではないけれど、何かのきっかけになれることを自分ができているのかもと思ったときにすごく嬉しくて、好きなものを発信していくことはいいことなのかな、と思うようになりました。
喫茶店に関しては、無くなる喫茶店も増えていて、もちろん、無くなるのにもいろんな理由はあるんですけど……やっぱり、少しでも長く続けてほしいので、私も何か役に立てることはないかな、といつも考えます。
—お仕事以外の余暇は何をされていますか。
いろんなところで、趣味はなんですか?と聞かれることが多いんですけど、私は仕事と自分がやりたいこと、プライベートが一緒くたになってしまっていて。それは自分にとって悪いことではないです。全部楽しいと思えることなので、「嫌だな」と思うこともないし、 そんなに休みが欲しいと思ったこともあまりないんですよね。
休みのときも、これから何ができるか、 とか次どうしていこうかな、ということをずっと考えているので、夢もそんなものばかり見ちゃいます。寝ても覚めてもという感じ。逆に言うと、そういうことを考えていないとすごく不安。「私にはこれしかないんだ」って思うとたまに落ち込むこともあります。
あ、散歩が好きでよく歩いてます。ビルを見たりとか、民家を見たりとか……。写真を撮ったりもする。
—歩くのが好きな場所はありますか?
家の近所も好きだし、知らない場所も歩きます。今って地図見たらどこにいるかすぐ分かっちゃうじゃないですか。でも、全然見ないで、直感で行って、迷う。それも面白いし、いろんなものが見つけられる可能性が広がる気がする。地図じゃなくて周りをよく見るようになるから。
地図は便利だし、すぐ近道を教えてくれるからありがたいけど、そうじゃなくて、無駄というか、余白を常に大事にしたいなって思っています。
—余白のどんなところが好きですか?
昭和のデザインとか、建築とかの好きなところって、作った人の趣味趣向が真正面から感じられるところで。今はシンプルで、みんなに使いやすくデザインされているものが多いなと感じています。もちろんそれはすごく便利で日々の生活でありがたいなと思います。でも、余白とか、無駄だとされているものが、実は、本当に意図するものや表現のきっかけだったかもしれない。余白や無駄なものこそすべてだと思っていて。
そういうところがやっぱり見たい。作り手の気持ちが知りたいなって思うのは、道を歩いていてもありますね。 最近、人のお家の花壇を見るのにめちゃめちゃはまっていて。すごく個性的なんですよね、その人の家の花壇だからその人の自由にやって良いわけじゃないですか、「大雑把だなぁ」とか「すごい綺麗に色揃えてるな」とか思いながら観察しています。
発泡スチロールの箱を植木鉢にしてたり、どことなく懐かしさを感じたりもするし、昔のことを思い出すきっかけにもなるから、そういう気持ちが自分がものを作る動機にもなるし、刺激がありますね。

—これからなりたいモデル像はありますか?
自分が本当に「生きてるな」って感じられることがモデルの仕事をやっているときなんですけど、だから、できるだけ1日でも長く続けていたいっていうのはあります。モデルの世界はすごく好き。ただ、突然明日仕事が無くなるかもしれないし、怪我をしたら仕事はできないし。それでもやっぱり、誰にでもできる仕事じゃないっていうところに魅力を感じていて。
そのことがモデルを始めたときから今までずっと心にあるからこそ、今でも続けられているんだろうなと思います。 ここ何年かずっと思っていることは、すごく抽象的なんですけど、誰かのきっかけになるような仕事をしていきたいということ。
自分の発信した何かが、誰かのちょっとしたきっかけになればいいなと思いながら仕事を続けています。
—小谷さんのように積極的にモデル以外の活動をされている方も珍しいですよね。
何の職業だっけ?と自分でもわからなくなるときはたまにあります。私自身がわからなくなってるから、そう思っている人はもっといっぱいいるはずで。だから、「職業はモデル でいいんだよね?」って確認されることもよくある。
ひとまず、モデルとしてこの世界に入ったから、今の所はモデルでいいのかなぁという感じです。肩書きはなんでもいい!私は私だから。いろんな楽しいことをやらせて貰えて、いろんな方面の人たちから見ていただけることが本当にありがたいことだから、ひとつずつできることを全力で返していきたいなぁと思っています。
—アーバンリサーチとの企画など、よくコラボをされていますが、そういった活動の楽しさについて教えてください。
自分と誰かが掛け合わさって出来る化学変化みたいなものが面白いなと思っています。自分の考えだけじゃ浮かばなかったアイディアとか、ひとつの出来事だけじゃなくていろんな方向に派生していくように感じられることがすごく面白い。
もちろん誰かと一緒に何かを作るということ自体が単純に楽しいし嬉しいです。

—反応も楽しみのひとつですか?
そうですね、すごく気になります。どう思われているのかということも気になるし、もちろん褒めてもらえたりしたらすごく嬉しいです。 モデルの仕事って、外からの反応を感じるのが難しい仕事だなと思っていて。最近はSNSがあるから、 「誰々が可愛い」とかおしゃれ、とか、やっとみんなにどう思われているのかが垣間見れるようになったけど、私はこの仕事で「本当に誰かの力になれているのかな」っていう疑問が前からありました。
去年アーバンリサーチですごく丈の長いワンピースを作ったんです。私は身長が167cm あるんですけど、フルレングスって一般的に言われている服の丈がいつも、もう少し長かったらいいなと思うことがよくあって。だから、丈をすごく長くしたんですけど、身長が高い女の子から「こういうのが欲しかったんです」って言って頂いて、本当に作ってよかったと思いました。
私もこんなワンピースが欲しいという思いで作ったので同じ気持ちを共有できたことが嬉しかった。いろんな人の大事な1着になってくれたら嬉しいです。
—今まで小谷さんがされたお仕事で1番わくわくしたものはありますか?
難しいな……全部好きで、本当に。小さい頃から、足も遅くて、勉強もできたわけじゃなくて、何かで賞をもらったこととか、1番になったことかとか全く無い子供だったけど、唯一小さい頃から背が高くて。それだけ、 本当にもうそれだけを抱えて生きてきて、それがモデルになるきっかけでした。
長く続いたものとか得意なものが全然なかったから人生で一番長く続けているものがこの仕事だから、本当に自分にとって大事でわくわくするものです。 例えば映像の仕事とか、作り手の思いや誰かのアイデアのひとつになれる体験をすることができることに喜びを感じるし、ものを作ることも、誰かを喜ばせることの1番の近道なのかな、と思うので続けていきたいです、全部。文章を書くことも、自分が日頃頭の中の自分と会話していることを形にできていて楽しい。
誰かが必要としてくれているんだな、と感じる気持ちに最終的にはつながるんですけど。私でいいんだ、っていう。この仕事でやること全てが総合的に自分が生きてるなぁ、と感じられるときですね。
小谷さんは、モデルの仕事も、喫茶店の仕事も、コラボレーションでものを作ることも、 全てを楽しみ尽くすことで、結果的に人に喜びを与えることにつなげている。 次は、彼女の生活が私たちにどのような発見を与えてくれるのだろう。
小谷実由(おたに・みゆ)
1991年生まれ。ファッション誌やカタログ・広告を中心に、モデル業や執筆業で活躍。一方で、 様々な作家やクリエイターたちとの企画にも取り組む。昭和と純喫茶をこよなく愛する。愛称は おみゆ。
Twiiter
@omiyuno
Instagram
@omiyuno
WEAR: https://wear.jp/omiyuno/