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「なくても生きていけるものこそが、人びとの人生を豊かにする」靴デザイナー北村早苗の固定概念にとらわれない生き方とは

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今回ご紹介するのは、常識にとらわれないクリエイティブな靴を創造し続けているクリエイター、北村早苗さん。

北村さんの代表作は、KIMONO SANPO。装飾品としても実用品としても使用できる、サンダルのように履ける草履で、今までの草履にないカジュアルな手軽さと、インテリアとしても活躍するデザインの美しさが魅力。

KIMONO SANPOを作った経緯から彼女の物作りに対する思いを聞いた。

 

協力:桐生織物、有限会社大沢縫製、和田織物

 

ーインテリアとしても、ふらっと日本の街を歩くサンダルとしても使えるKIMONO SANPO。本当に素敵です。どういったきっかけで創作されたんですか?

私は現在表参道で暮らしているんですけど。表参道を歩くような人って、きっと皆すごくリッチで、高い靴を履いているんだろうなって思っていたんです。でもそれって、私のなかの固定概念でしかなかったんです。実際に見てみると、スポーツシューズやサンダルの人が多くて、高いヒールや高価そうな靴を履いている人はほとんどいませんでした。そういう、カジュアルなものを好む人にも、日本の伝統的な草履を履いてもらうにはどうしたらいいのかなと考えたときに出来上がったのがこのKIMONO SANPOです。

 

ーサンダルのような草履って、とても斬新ですよね。

そうですね。サンダルやスポーツシューズなどに使われているEVAという白い底材があります。現代的な靴に使われるそれと草履を結び付けたら、多くの人に履いてもらえるかもしれないと思ったんです。日本の美しい伝統を、日本人や、観光客の方にも履いてもらえるものにしたくて。外国の方は、気軽に日本の良さに触れられるだろうし、日本の方は、それが変化球であり、今までにない草履だと認識してもらえるんじゃないかと感じたんです。伝統は、その良さを残したまま変わっていけるんではないでしょうか。

 

ー北村さんは、「靴はこうあるべきだ」という固定概念から解放された考え方をしていますよね。そういう思考のルーツはあるんですか?

ヒコ・みづのジュエリーカレッジというデザインの専門学校で5年間靴のデザインを学んだのですが、そこで、日本の先生方(齋藤良先生)を中心に、イタリア、オランダ、アメリカといった様々な国の先生に教わっていました。一番最初に教わったのは、靴のデザインじゃなくて、自分が持っている固定概念を無くすということでした。私はそれまで、ものすごい枠にはまった生き方をしていたんですね。日本人が必ずしもそういう生き方をしているというわけじゃないとは思うのですが、やはり固定概念のなかで生きている人は多いんじゃないかなと思います。ものづくりも、表現することも、人間関係も。全て、自分次第でいくらでも自由にできるんだという思考になれたのは、専門学校の先生のおかげですね。

 

ーその頃の出会いや体験が、今の北村さんの作品のみならず、人格も形作っているんですね。ちなみにそもそもどうして靴のデザインをしようと思ったんですか?

私は9歳の頃から10年間新体操を習っていました。オリンピックを目指すつもりで必死に取り組んでいたものの、大学生の頃にやめてしまいました。高校総体や国体ではそれなりに結果を残してきたのですが国際舞台で戦うには少し身長が足らなかったんですね。大学生になりその現実に直面させられた時、全てを失ったかような失望感を覚えました。そこからは熱中できるものもなく、なんとなく仕事をして生きる日々が続いたのですが、そんな時に東日本大震災が起きて、雷が落ちたように気持ちが飛び跳ねました。こんな風に過ごしていていたら、何もせずに死んでしまうかもしれない。もう一度自分の人生を見つめなおし、何かを突きつめて真剣に生きたいと思ったんです。

 

ーそれで、靴づくりに?

はい。新体操をしていたが故に、私の足の形は踵が小さく、つま先が大きく育ってしまって。そうなると、前と後ろでスリーサイズくらい変わるので自分に合う市販の靴がなかったんです。そこで、とりあえずはじめに、自分の靴を作ることからはじめようと思ったんです。もう1度自分を足元から見つめてみたいという気持ちもありました。そして実際に靴や履き物作りを学び始め、考えを深めていくにつれ、靴は生活必需品であると同時にアートになり得るアイテムではないのかと思うようになりました。

 

ー人は靴を履かないと、思うように歩けないですもんね。原始的で、シンプルで、はっとさせられるような発想ですね。

そうですね。靴を履いて歩いていく……靴ってある意味人生を象徴しているように思うんです。新体操も、アスリートであり表現者でもある両面が必要とされた競技でした。だから、靴づくりも新体操も、どこか通ずるものがあるのかもしれません。その後、アートやボーダレスの自由な世界の面白さを、靴や履き物をベースにしながら追求してみたくなり、現在へと至っています。靴をただ履くだけの靴として定義せず、自由な発想でつくっていきたいと思っています。例えば靴は飾って見て楽しむものでもあるし。

 

 

 

 

ーKIMONO SANPOもまさに、インテリアとしても楽しめる靴ですよね。

はい。私の在籍していた学校の靴デザインコースには、たくさんの靴好きが集まっていました。紳士靴、婦人靴、スポーツシューズ……それぞれ皆好きな靴のジャンルは違うんですが、そのなかでもスニーカーが好きな人は履かずに集めて飾って楽しんでいる人が多くて。そこには嗜好性というか、靴が心の満足を得るためのものだなという気づきがあって。そういったものって大切なのかなって。音楽だって、美術だって一緒ですけど、人間はなくても生きていけるものこそを求めていて、そういうものが人びとの心を豊かにするんだと思うんです。

 

ーこれからつくってみたいものはありますか?

知人のアートギャラリーに飾るための、観賞用に特化した「履けない靴」をつくりたいです。

 

ー靴づくりに影響を受けたものはありますか?

 

曲線を意識した作品

 

新体操選手の「マリア・ペトロバ」が作り出す曲線美。私が新体操をしていた頃、彼女はスター選手で、憧れでした。あとは、絵画からもインスピレーションをもらっています。モネの作品や、フェルメールの『牛乳を注ぐ女』が好きです。

 

女性の一生がテーマの作品。
フォルムは着物の襟部分を踵、前の合わせ部分をつま先に表現した。この制作の際、独自の革で革に刺繍する革刺繍製法を創り出す。現在特許出願中。
イタリアconsorzioverapelleに収蔵

 

日本の伝統的な美しさも好きで、影響を受けていると思います。例えば着物の衿の直線美には、惚れ惚れしてしまいます。

 

ー最後に!HPにあった「時を超え、人を超え、そして世界を超えていく」という言葉がすごく印象的で好きだなと思ったんです。どういった経緯でこの言葉が生まれたのか、ぜひ聞かせてください。

ありがとうございます!あれは、自分が見ている世界というのは、実は自分が作り出したものに過ぎないと思ってできた言葉なんです。例えば苦手だと思っていた人とも、話してみると気が合ったり、外国の方とは意思疎通ができないと思い込んでいたけど、ジェスチャーだけで意外と伝わったり。

自らが「伝わらない」と思い込んでしまっていることが「伝わらない世界」にしているだけなんだと思います。世界は、自分次第でどうにでも変えることができるんです。「靴」は「履くもの」ではなく、「観るもの」にもなる。世界はもっと自由なんだなということを伝えたいんです。私自身も、靴しかつくりませんということはなく、これから絵も描くし、音楽をつくるかもしれない。人間は多面的で、そして自由に行動したりものをつくったりできる。そういう世界で生きていきたいですね。

 

柔軟な発想で自由に、時も、人も、世界も超えていくクリエイターの北村さん。今後いったいどんな、形にとらわれない芸術を見せてくれるのでしょう?枠におさまらない彼女の更なる活躍に期待です。

 

 

北村早苗(きたむら・さなえ)

岡山生まれ、鳥取育ち。9歳から20歳まで新体操に打ち込む。大学卒業後は新聞社受付、秘書を7年勤務。人生の転機は東日本大震災。それを機に会社を退職し、新体操で変形した足に似合う靴を製作したいとものづくりの世界へ。

Instagram@SanaeKitamura

HP:SANAE KITAMURA

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