ニューヨーク発の人気ブランドTelfar(テルファー)のデザイナー、Telfar Clemens(テルファー・クレメンス)はハンバーガーチェーンのWhite Castle(ホワイト・キャッスル)でショーのアフターパーティーを開催するのが習慣だったそうだ。
 
2015年に、ホワイト・キャッスルに自身のファッションショーのスポンサーをしてもらったことがきっかけで始まった習慣だという。
 
さらにテルファーはホワイト・キャッスルのために1万2000着のユニフォームを作り、ホワイト・キャッスルのニューヨーク市内の支店のポストコードがついた限定版Tシャツの製作にも取り組むなどの貢献を見せる。

 

クレメンスはこのタイアップを社会政治的な営みだと捉えている。
 
「もしこのTシャツが欲しかったら、ホワイト・キャッスルに行かないといけないんだ。単にソーホーのおしゃれなショップで売られているものではないんだよ。それにこれはロゴの盗用ではない。これはファッションにおける新しい取り組みなんだ」
 
「ホワイト・キャッスルのために作ったユニフォームはベルリンビエンナーレのために作ったものと同じだよ。だって、『かっこいい』変化を生産し消費する営みとして芸術とファストフードは直接繋がっているべきだと思うからね」

 

大衆ブランドを取り入れるハイブランド

ハイファッションに大衆的なブランドを取り入れているのはクレメンスだけではない。
 
Moschino(モスキーノ)のクリエイティブディレクターを務めるJeremy Scott(ジェレミー・スコット)は大手ハンバーガーチェーンのMcDonald’s(マクドナルド)、アメリカ発のスナック菓子Cheetos(チートス)などと何年にもわたりコラボしている。
 
昨年のニューヨークファッションウィークでは、Alexander Wang(アレキサンダー・ワン)が7-11(セブン・イレブン)とマクドナルドの看板を自身のアフターパーティー会場に設置していた。
 
「毎日目にし、よく知っているものをファッションの一部として少しひねった観点から見るのが面白いのだと思います」というのは、イギリスの薬局Boots(ブーツ)など、大衆に馴染みの日用品ブランドのロゴを自身のデザインに使用したことで有名なAnya Hindmarch(アニヤ・ハインドマーチ)だ。

 

ロゴはもちろん許可を取ってから使用され、日用品ブランドにとっては「ファッションという非常に可視化されやすい、通常とは異なる市場での認知度が高まる」という利点もある。
 
アニヤは、「日用品ブランドのロゴが作り出す雰囲気が好きなんです。消費者はすでにそのロゴに対する先入観があるので、そこに工夫をすることでいつもと違う反応を引き出すことができます」と語る。

 

ファッションにおけるハイ×ロウカルチャーミックス
 

ハイカルチャーとロウカルチャーをミックスする風潮は、アートの世界においてはノーマルだったものの、10年ほど前まではファッションの世界ではほとんど見られなかった。
 
例えば、1962年に発表されたウォーホルの『Campbell’s Soup Cans(キャンベルのスープ缶)』は戦後の消費社会・大衆文化に対する揶揄として話題をさらった。

 


 
「大衆文化を象徴するロゴを皮肉的に使用することで逆に大衆文化を揶揄する」という風潮がファッション界で見られるようになったのは過去10年ほどのことだ。

このようにアートとファッションの手法はかなり融合してきているとはいえ、ファッションにおいて大衆ブランドのロゴを使用する目的は未だにアートよりもなあなあとしたものであるとも言える。
 
例えばDemna Gvasalia(デムナ・ヴァザリア)がVetements(ヴェトモン)のためにデザインした大手流通会社のDHLのロゴ入りTシャツは245ドル(約2万8000円)で販売され、2015年に大ヒットを記録したが、同時にファッションとビジネスの癒着だという議論を生んだ。
 
一方でヴァザリアがBalenciaga(バレンシアガ)から発表したCrocs(クロックス)のシューズやIkea(イケア)のバッグを模したバッグには「大衆文化への揶揄」という要素が含まれていると言ってもよいだろう。

 

バレンシアガが2150ドル(約24万5000円)で販売したこの「イケアバッグ」は即完売となり、メディア上でも今年1月から9月の間に230万ドル(約2億6000万円)の利益を上げたという。
 
さらに大手メディアにも取り上げられ、通常のファッションメディアの読者数よりも幅広い1億1600万人に到達した。
 
こうした動きには、ハイファッションとはあまり関わりのない人にも商品を届けたいというデザイナーたちの思いも関係している。
 
マーケティングツールとして、誰もが一度は手にしたことのあるような親しみのある商品のロゴはハイファッションブランドに多様な影響を与える。
 
ウォーホル作品のようなメッセージ性は低いかもしれないが、今日の大衆ブランドロゴの流行はインターネット世代に共鳴するように計算されたものなのだ。