独自のコンセプトを武器に荒波のファッション業界に挑む、注目株のデザイナーのリアルな声を届ける連載企画【新進デザイナー】。

第七回目は、2014年のLVMH Young Fashion Designer Prize (LVMHヤング・ファッション・デザイナー・プライズ)のファイナリストに選出されたウクライナ発ブランドPaskal(パスカル)のデザイナー、Julie Paskal(ジュリー・パスカル)。

2016SSはColette(コレット)のショーウィンドウを飾り、16AWからはパリ・ファッションウィークの公式スケジュールでコレクションを発表している。

ウクライナらしい大胆な色使い、レーザーカットを駆使したカッティングや構築的でエレガントなシルエットが特徴。

イノセントなシースルー素材、愛らしいモチーフが主軸で、ストリートトレンド全盛のシーズンにロマンティックでガーリーなスタイルに注目が集まり、東欧で最も有望なファッションデザイナーの一人として名前が上がっている。

科学者の父と物理学者の母を持ちウクライナで生まれ育った彼女が、いかにしてファッションの世界へと入ったのか。

弱冠27歳でファッションデザイナー、妻、母の顔を持つ彼女に過去から現在、そして未来の展望まで訊いた。

Q:ウクライナではファッションではなく建築専攻で大学を卒業していますよね。建築関係ではなく、ファッションデザイナーの道進んだのではなぜですか?

ファッションへの興味は幼い時からありました。

建築を専攻しましたが、大学で学ぶにつれて服作りにも力を入れ始めていた自分がいたのです。

私は、空間を包むという点において建築と服には共通項がいくつもあると思っています。

両親、特に母親のサポートは大きく、野心を抱く私の助けをいつもしてくれています。

在学中も、服作りのために必要だったレーザーカット加工機を探し回り、街に唯一あった一機を見つけてくれたりもしました。

それからは、ますます服作りに力を注ぎ、今では建築で学んだことを生かし、レーザーカット技術がブランドのシグネチャーになっています。

Q:建築で学んだことで、服作りに生かされている具体的な点を教えてもらえますか?

色、比率、線、形の概念を与えられました。

本質を捉え、より論理的に構築していく考え方です。

たとえ発想の出発がとても空虚で表層的なアイディアだったとしても、しっかりと建築的に組み立てていくことでオブジェクト(服)は意味を持つことができる。

布で作ることで、柔らかく繊細な建築物を身に纏えるというのは素敵なことだと感じてます。

(2014年キエフ・ファッション・デイズで開催したショー)

Q:新しいデザインに取り掛かる際、何から手をつけるのですか?

私のデザインは、私が見ているものの投影で、世界をどのように認識しているかを表現しています。

Paskalの美学は、実際の感情や経験から生まれるのです。

さまざまな事柄からインスピレーションを受け取り、常にメモやスケッチに書き留めるようにしています。

そこからイマジネーションを膨らませ、コレクションごとに一つの世界観を描いていくといった流れです。

Q:コレクションを形成するうえで最も大切にしていることは?

自らが作るものに対して正直でいるということね。

顧客にプライベートに服を作るとしても、お互いのヴィジョンが合わなければ私は作ることはしないの。

プレタ・ポルテは特に、商業的になり過ぎて時代に迎合してしまうようなコレクションは作らないことにしています。

いつも自分自身に素直に誠実に、本物の感情と経験から生まれるデザインで表現することは、これからも変わりません。

Q:ウクライナを拠点にしていますよね。スタジオで働くチームは何人ですか?

夫であり、ビジネスパートナーでもある彼と、親友が2、3人と数えるほどよ。

パリコレクションでショーを開催する準備は、母の手も借りています。

とても小さなスタジオで、気の許せる身近な人達に囲まれて仕事をできているから、コレクションもより親密にリラックスしたものに仕上がるのかもしれない。

今後コレクションのラインを増やしていく予定だけれど、スタジオ内の雰囲気や関係性は変わらないと思う。

(2014年Pittiで展示会を開催)

Q:ColetteやDover Street Marketなど、世界で50以上の卸先を抱えながら、少人数で回っているのはすごいですね。

ファッションショーの前はとても忙しくなるけれど、生産や納品が遅れることは全くないわ。

ファッションも経営も学校で学んだことはないけれど、たくさんの人の力や知恵を借りながら、経験とともに学んでいる過程です。

本を読んだり、パーティに出かけたり、音楽を聴きに行くなんて余裕はないけれど……。

家族と過ごす時間は頭を切り替えてオフにできるプラベートな空間で、限られているからこそとても大切に過ごすことにしてます。

Q:Paskalが描く女性像を教えてください。

Paskal Girは愛情深いですが生真面目ではありません。彼女は自由な精神を持っていて、とても愉快で、自然に触れることが好き。柔軟性を持っていて、固定概念にとらわれることがないのです。お料理も得意だけれど、キスの方が得意(笑)そんな女性です。

Q:毎シーズン、一風変わった生地を使用しますよね。独学で培ったというカッティング技術やパターン構成が一際光るような生地を採用していますが、生地選びはどのように行うのですか?

生地は服の要であり、製作段階において最も好きなパートでもあります。シグネチャーは”アトラス”と呼ばれる生地です。

非常に構造化され、適度に厚く、 形状を保持しながらレーザーカットするのに最適なのです。このアトラスに合う生地を世界中から集めて、実際にサンプルを作って決めていきます。シースルーやチュールといった透け感のある生地はアトラス重厚感と対象的でコントラストが美しい。手で触れて、作ってみて決めていくことが多いですね。

Q:2014年LVMH Young Fashion Designer Prizeのファイナリストに選出された時も技術を高く評価されたました。この時はどんな気持ちでしたか?

青天の霹靂で本当に予想外でした。Paskal以外にファイナリストに名を連ねてたのは、私の好きなデザイナーばかりで、とても光栄なことだと思いました。自分が正しい方向へと進んでいると確信するとともに、より専門的な成長をブランドに反映させることが成長していくための次の段階だと気持ちを改めましたね。当時はまだブランドも立ち上げたばかりで、こんなに早く卸先が増えたり、Coletteなどの名の知れたお店に置かれるとは思ってもいませんでしたから。

Q:Paskalの他にAnna Octoberもファイナリストに選ばれるなど、ウクライナのファッションに注目が集っています。パリでコレクションを発表し世界で活躍するあなたの視点から、ウクライナと他国の違いは何だと考えますか?

ウクライナには才能のある創造的なデザイナーがたくさんいます。主要都市のデザイナーは数字を意識するあまりに、コンセプチュアルになり過ぎたり商業主義的に見えますが、ウクライナはより誠実にアイディアを具現化していると思います。

しかし、ウクライナにはプロフェッショナルにファッションデザインやマネージメントを学べる場がないという欠点もあります。私自身、ファッション業界に入って、”学んでいない”という問題に直面したことがあります。経験を元に、SCHWETZ(シュワッツ)という名のスタジオを立ち上げ、若いデザイナーの生産から在庫、流通に関わる部分のサポートをする活動に取り組んでいます。

Q:SCHWETZを立ち上げたきっかけは?

シンプルにウクライナの人々が持つ才能をさらに伸ばしていきたいし、その一員でいることをとても誇りに思っているからです。何かいいものを創りたいと純粋に努力を続けている人の力になりたい、という思いがきっかけです。

Q:年に4つのコレクション発表、SCHWETZでの活動ととても多忙な日々を送っているのでは?

それは唯一の問題です(笑)。幸いにも、2人の子供も夫もとても献身的。家族でただソファに寝そべったり、公園を散歩するだけでもとても癒されるし幸せを感じることができます。仕事から離れている時間はほぼずっと、家族と過ごします。

Q:最後に、今後の展望を聞かせてください。

ブランドの成長に尽力しつつ、これからも商業的になり過ぎず、本物の感情を表現することを揺るぎなく貫くつもりです。具体的なところでは、キッズラインやランジェリーラインを近い将来新たに発表する予定。

Paskalの世界観に触れて、それを纏った人達の気持ちが少しでも晴れやかに、軽快になってくれることを願っている。いいものを創り続けるためには私自身の心の状態もバランス良くなければいけないから、母として妻としても手を抜かずに楽しみます。