独自のコンセプトを武器に荒波のファッション業界に挑む、注目株のデザイナーのリアルな声をきいた連載企画【新進デザイナー】。第8回目は、14年間Louis Vuitton(ルイ・ヴィトン)メンズウェアのテキスタイルコンサルタントを担い、2015年に自身の名を冠したブランドを立ち上げたEdward Crutchley(エドワード・クラッチリー)。

現在もLouis Vuittonでの業務を手がける傍ら、過去にはKanye West(カニエ・ウエスト)や現Givenchy(ジバンシィ)のクリエイティブ・ディレクター、Clare Waight Keller(クレア・ワイト・ケラー)ともコラボレーションを果たしてきた。ブランドは3年だが、業界での経験は豊富で、ファーストシーズンからロンドンの老舗Browns(ブラウンズ)がセレクトするなど、注目を浴びる存在。

自身のブランドでも、経験を生かした多種なテキスタイルを使用し、“West meets East”をテーマに、東洋と西洋の融合を試みる。現在もLouis Vuitton、Richard Nicoll(リチャード・ニコル)、Jevoni(ジェボーニ)などでコンサルタント業を担い、年間16コレクションという膨大な量をこなしているという。

そんな彼は、イギリスの名門Central Saint Martins(セントラル・セント・マーチンズ)ではウィメンズのデザインを学んだ。現在はウィメンズではなくメンズのクリエイティブ・ディレクターを務めている彼に、なぜテキスタイルに魅了されたのか、これまでの経緯と今後のヴィジョンなど、18秋冬コレクションのショーを終えたばかりの彼に直撃した。

 

Q:ファッションデザイナーを目指したのはいつからですか?

幼少期から服が大好きで、デザインしたり、シューズを作ったりしていました。着ている服が気に入らないと出かけたくなと駄々をこねる子どもで、母親泣かせだったと思います(笑)。記憶の中で一番最初にデザインをしたのは、バービーの衣装を公募しているコンペティションでした。

9歳の時に母親が提案してくれてチャレンジしてみたんだけど、確か赤いビスチェにアシンメトリーのスカートをスケッチとして描いて出してみた覚えがあります。バービーが娼婦みたいになりましたね(笑)それから服や靴のデザイン画をいくつも描いて学生時代を過ごし、自然な流れでCentral Saint Martins(セントラルセントマーチン)に入学しました。

Q:当時からウィメンズのデザインに関心があったということですね。大学でもウィメンズデザインを修了されましたが、現在はメンズを手がけています。進路が変わったきっかけは何だったのですか?

卒業後すぐにPringle of Scotland(プリングル・オブ・スコットランド)で働き始め、メンズのデザインを始めたんです。その後Louis Vuitton(ルイ・ヴィトン)でもメンズウェアにフォーカスするようになり、ますます面白いと思うようになっていきました。微妙なニュアンの違いで仕上がりは大きく変わるのがメンズのデザイン。その繊細な美学を追求していくことがとても刺激的で、メンズに集中するようになっていきました。

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Q:その繊細さは自身のブランドに非常に表れていますね。テキスタイルにこだわるようになったのは何故ですか?

明確な理由を述べるのが難しいな……。ただ、答えはとてもシンプルで、テキスタイルが服を知覚するのに最も重要な役割を担っているからだと思います。それに世界中には各国の文化に紐付いたテキスタイルが存在していて、それを知ることに魅了されてしまっているんです。その国の人々が生み出した独特の技法だったり、モチーフの特徴だったり、本当に千差万別なんですよ。

Q:どのようにテキスタイルを選ぶのですか?

まずは、世界中から集めた200冊以上のテキスタイルブックで、リサーチするところから始めます。コンサルタント業務の時は、クライアントのコレクションイメージを聞いて、それに合うテキスタイルをとことんリサーチして提案します。自分のコレクション制作においては、まずグラフィックやモチーフが先に浮かびそれからリサーチする。もしくはビビッとくるテキスタイルに出会い、それからコレクションイメージを膨らませていくこともあります。

Q:過去にビビッときたテキスタイルはどのようなものですか?

ファーストコレクションでは、インドネシアのサンバ島で出会った伝統的な技法を用いたブランケットのテキスタイルを用いました。触れた瞬間、絶対にこれを使いたい!と思ったんです。日本のテキスタルもとても優れていて、見たことのない新しいものに出会えることがあるから、いつもワクワクさせられてます。

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Q:そのリサーチ力と審美眼と繊細な感性が、多くの著名なクリエイターから支持が高い理由かもしれませんね。自身のブランドを手がける傍ら、Louis Vuittonでの業務も継続していますよね。メンズのクリエイティブ・ディレクターKim Jones(キム・ジョーンズ)との仕事は、あなたにどのような影響を与えましたか?

とにかく彼は才能に溢れ、寛容で、チームを率先する能力に優れている人物です。この業界で最も刺激を受け、良い影響を与えてくれた。僕がブランドを立ち上げる決意をした時もとても協力的にアドバイスをくれたんです。

Q:Kanye West、Clare Waight Kellerなど名だたるクリエイターとも共にコレクションを手がけてきましたよね。

カニエの脳は止まることを知らないんです!次から次へと素晴らしいアイデアを生み出していて、一緒に仕事できたことは素晴らしい経験をさせてもらえたと思っています。クレアは仕事に対してとても真摯で、ラグジュアリーとは何か、その本質を追求する姿勢を見習っている。デザイン画を描くことやパターンに当てはめることよりも、まずはリサーチが重要だというのも彼女の仕事ぶりから学んだことなんですよ。

Q:コンサルタント業で既に多くの時間を費やし、一人のクリエイターとしても成功しているように見えるので、自身のブランドを立ち上げるのはある種リスクを負う大きな挑戦なのかなと思うのですが、立ち上げたきっかけは?

業界で経験を重ねるにつれて、自分のヴィジョンが膨らんできてそれをアウトプットしたいと思うようになったからです。コンサルタント業もクリエティブが必要とされますが、誰かが築いたコンセプトの上で形成させていかなければならない。ゼロから自分で創造したいし、自分には独自の美学や視点があると気づいたから、ブランドを始める挑戦を決めたんです。

Q:自身のブランドをどのように定義しますか?

モダンでシック、そして独自性を持つラグジュアリー。美しさと良質の意味を理解し、自分自身のためにドレスアップしたい人のための服です。

Q:”West meets East”と、東洋と西洋の融合をコンセプトに、どの国籍にも属さないコレクションを展開してきましたよね。そのコンセプトの意味、きっかけを教えてください。

これまで何度もアジア諸国を訪れ、インスピレーションを受けてきました。特に日本の服飾文化に多大な影響を受けて、着物や羽織の“身を包む”という概念が、西洋のスポーツウェアやワークウェアとった機能的なデザインと融合することで、新たな概念が構築できると思いました。


Q:一見すると気づきませんが、服の構造が確かに着物や羽織がベースになっていることが分かります。コレクションを追うごとにオーバーサイズのボリューム感は増し、ドレープも変化していますよね。

そうなんです。最新のコレクション、18秋冬ではさらにデフォルメさせて、大きなドレープを描いてみました。テキスタイルやモチーフはインドと中国の伝統的な民族衣装から着想を得たものです。メンズ・ウィメンズの概念も取り払い、両方のモデルを起用しました。

Q:アイデアだけでなく日本のテキスタイルを使用したこともありますか?

まだ自身のブランドではないです。以前、長く仕事をしている日本の製造工場から、「新しいジャージーを開発したからエクスクルーシブで使用してくれないか」と提案してもらったことがありました。表裏別々のモチーフで、今まで見たこのないテキスタイルでした。けれど、実際に使用してみると、生地が割れてしまうということが分かって、使用は断念しました。どんなに素晴らしくても、自分がそれを着たいとは思えなかったからですかね。

Q:自身のブランドでは、ロンドン発のサングラスブランドBLYSZAK(ブライザック)や、今季新たにKopenhagen Fur(コペンハーゲン・ファー)ともコラボレーションをしていますよね。ファッション業界で顔が広いだけに、今後もさまざまなコラボレーションを期待していいですか?

まだ詳しく言えないんだけど、今後発表する予定のものはいくつかあるから期待していてください。素晴らしい才能を持つクリエイターとともに何かを制作できるのは、とても幸せなことです。まだまだ学ぶことがたくさんあると感じています。

BLYSZAKのサングラスを採用した、AW17のプレゼンテーションの光景

Q:大学を卒業したばかりの若世代の活躍が目立つロンドンですが、あなたにとってはどんな街ですか?

才能に年齢は関係ないと思うけれど、経験は貴重です。ロンドンの“多様性”にはすごくインスピレーションを受けるし、面白い街だと思います。けれど外にはもっともっとたくさん、いい意味でクレイジーな人がいるし異国文化に刺激されることが多いかな。

Q:今後はブランドをどのように成長させていきたいですか?

新しい、美しいテキスタイルを探すこと、そしてテキスタイルにぴったり合うグラフィックやモチーフを描くことへの追求、それは今後もずっと変わりません。モダンでシック、“美しい”とは何かをブランドを通じて僕なりに提示していきたいです。商業的な成功や賞賛は、おまけにしか過ぎません。