独自のコンセプトを武器に荒波のファッション業界に挑む、注目株のデザイナーのリアルな声をきく連載企画【新進デザイナー】。

第10回目は、2017年LVMHグランプリを獲得した、Marine Serre(マリーン・セル)。

頭を短く刈り込んだ、152cmと小柄な体型の彼女はフランス生まれで、ブリュッセルのファッションスクールLa Cambre(ラ・カンブル)を数年前に卒業したばかりの25歳。受賞当時はBALENCIAGA(バレンシアガ)でアシスタントデザイナーを務めており、業界ではまだ無名だった。

デザイナー人生を180度変化させることとなり、今年3月のパリ・ファッションウィーク中には初となるショーを開催し、“シンデレラ・ガール”として注目を集める。受賞理由について、審査員であるLOUIS VUITTON(ルイ・ヴィトン)のウィメンズ・アーティスティック・ディレクターNicolas Geschierre(ニコラ・ジェスキエール)は、「彼女の優勝は満場一致でした。彼女のあの作品で今日のファッションを表現したのです。スポーツウェア、身体意識、そしてある種のロマン主義と女性性。今の時代を雄弁に物語っています」とコメントを寄せた。Marine自身は全く期待しておらず、受賞は想定外だったという。

その後は、賞金である約3800万ユーロを資金にスタジオを構え、コレクション制作に打ち込み、世界中から押し寄せるジャーナリストの取材の対応や、インスタレーションの準備に追われ、あっという間に1年が過ぎたそう。まだまだ謎に包まれた存在である彼女のデザイナーとしての顔やファッションにかける想い、今後の展望について訊いた。

LVMHプライズ受賞時

Q:まずは、最新コレクションである2018秋冬コレクションについて聞かせてください。テーマや着想源はどこから?

根本的なテーマは、ファーストコレクションでありLVMHプライズの受賞作品でもある“Radical Call for Love”や“15-21”と同じで、FUTURE WEARです。特に2018秋冬コレクションでは、現代を生きる私たちが感じていることをキャプチャしてつなぎ合わせたような内容にしたかった。とても繊細でありながら、とても力強い、そんなスタイルを作りたいと思ったのです。だから着想源は私が日常目にする人々やテレビやSNSを通じて見る、見知らぬ現代の人々。

Q:LVMHプライズ受賞後初のコレクションとあって、今までとは違う点も多かったと想像できます。

そうですね、昨年10月にBALENCIAGAを退いて、自分のブランドに集中することになりましたから。生活も制作環境も変わりました。特に、生産に多くの時間と労力を注ぎました。なぜなら現代のファッション業界において、最も重要なプロセスだと考えているからです。

けれど基盤は変わっていません。いくつものガーメントを継ぎ接ぎするハイブリッド、三日月のシンボル、遊びゴコロがありながらも政治的主張も盛り込みます。私のお気に入りのファブリックであるモアレやジャージーも引き続き多用しています。

Q:初めてのショーを行って、率直な感想は?

とてもエキサイティングでした!数ヶ月間、約10分のショーのために小さなチームで制作を手掛けてきたのですから。チーム、手を貸してくれた友人、携わった全ての人をとても誇りに思っています。

Radical Call for Love

Q:LVMHプライズ受賞後、実際にどのように生活が変わりましたか?

それまでは作品制作はほぼ一人で行い、妹に手伝ってもらっていましたが、これからはそういうわけにもいかないので、インターンとアシスタントを探しました。スタジオ兼アパートメントももう少しスペースが必要になったので、パリ中心地へと移し、2018春夏コレクションに集中していました。9月のパリコレクションを最後にBALENCIAGAを離れ、自分のコレクション制作に集中し、バカンスもなくずっと働き続けていました。

Q:BALENCIAGAやその他のインターンの経験ではどのようなことを学ぶことができましたか?

学校を卒業してからなので、2016年10月から働き始めました。

BALENCIAGAのようなビッグメゾンで働くというのは素晴らしい経験で、企業としてどのように機能しているのかを見ることができたのは私にとって大きな意味があったと思っています。実際は、目の前のことをこなしていくのに必死でしたが(笑)。学生の頃にはAlexander McQueen(アレキサンダー・マックイーン)、Dior(ディオール)、Maison Martin Margiela(メゾン・マルタン・マルジェラ)でもインターンをして、多くを学ばせてもらいました。

Q:ファッションデザイナーを目指したのはいつからですか?

目指したことは正直なかったです。ただ、どの道を選んでも結局ここに辿り着くことになっただろうとは思います。

Q:子供の頃はどんなことに興味を持っていたのですか?

洋服には興味がありました。母や父の洋服、あと古着屋で買った洋服をリサイズしたり、継ぎ接ぎして遊びながら作って着ていました。他に興味があったことと言えば、動物が好きで、よく保護施設に行っていましたね。10代はテニスに夢中になり、大きな大会にも出場し、すべてのエネルギーをスポーツにかけていたんです。

典型的なスポーツ少女て感じですが、フェミニティである自分のアイデンティティを探求し、表現することはずっと試みていました。結果的にそれが現在に繋がり、スポーツウェアを基盤としたフェミニンな洋服を作っているわけですが、まさか仕事になるとは思っていませんでした。

 2018秋冬コレクション

Q:最初にデザインした洋服はどんなものだったか覚えていますか?

自分自身のためにデザインしたものです。ビンテージの白と黄色のストライプ柄のパンツを自分の小柄な体に合うようリサイズしたのです。

Q:ファッションへの関心が深くなり、ファッションスクールへ通ったと思うのですが、最もあなたが影響を受けたデザイナーは?

Rad Simons(ラフ・シモンズ)の正直で鋭敏な感性が表現されているデザインは、素晴らしいと感じます。他にはMartin Margiela(マルタン・マルジェラ)、川久保玲、Chalayan(チャラヤン)の作品にも刺激を受けてきました。

Q:あなたの作品も、様々な感情や事柄がハイブリッドにミックスされ、とてもメッセージ性の強いものだと感じます。

私の洋服を着る人には、自分自身が強くなったような気分になって欲しいと思っています。戦いの準備ができた!くらい。だって現代はそういう強さが必要だと思うから。けれど体のラインの美しさやカラー、ユーモアも失いたくはないので、フェミニンと強さが同居するように、ガーメントで表現しているのです。

ミューズはいませんが、私の洋服を着た女性像は、強く恐れ知らずだけれど妥協はしない。そしてシンプルに、とてもいい人。世代や肌の色は問わず、現代を生きる全ての女性のために洋服を作っています。

Q:現在までのベストセラーアイテムは?

三日月のシンボルがプリントされたアイテムがベストセラーです。ジャージー素材のタイトなブーツや同素材のロングスリーブトップスなど。アリアナ・グランデが彼女のツアーでジャンプスーツを着用してくれて、それも即完となりましたね。

Q:シンボルである三日月にはどんな意味があるのですか?

ブランドとして何か一つの意味を見出したわけではなく、いくつもの意味を持つ三日月だからこそ取り入れたのです。イスラム美術に登場したり、月は女性の象徴でもあり、見方を変えればスポーツウェアブランドを表すものでもあります。私にとって美しい形状であり、今日のファッションのあり方、またブランディングというものでも遊んでいることになるんです。

Q:新しいコレクションの制作に取り掛かるとき、まず何から着手しますか?2018秋冬コレクションについて着想源は特にないと前途してましたが、過去のコレクションもそうだったのですか?

まずはリサーチから始めます。デザイン画は簡単に描きますが、パターンや図面は引きません。物事を平らに見ないようにするためです。女性に直接服を着せてみて、実在の人にどうフィットするかを見ることが私にとって重要なのです。過去のコレクションでも日常に目を向けているので、特定して着想源があるというわけではないのです。

強いて言うなら、ファーストコレクションであり卒業制作でもあった“Radical Call for Love”は、2015年から2016年にかけて起きたブリュッセルとパリでのテロ攻撃やその時の人々の緊張から何かを感じ取ったのは確かです。何か美しいもの、平和をもたらすようなものを作り出したいという欲求だったのでしょう。

Q:平和な未来を願って、“FUTURE WEAR”を制作しているということ?

洋服制作には色んな想いを込めていますが、“平和”は確かに普遍的なテーマだと思います。スポーツウェアとクチュールの融合や、様々な素材やカットの組み合わせ、そして新たなガーメント作りやその技術の開発にも力を入れているので、現代にはない新しいものをという意味でもFUTUREなのです。

Q:最後に、デザイナーとして今後の展望を教えてください。

現代はとても速いスポードで進んでいますし、ファッション業界を取り巻く環境は急進的です(そう願っても願わなくても)。私自身将来のことは不確かで、一日一日瞬間瞬間を必死にやり抜くばかりです。ブランドがどのように変化していくは分かりませんが、私と私のチームはこれからも妥協せずに、新たなガーメントの開発や制作の楽しみを持ち続けるということだけは確かです。