銀行員から起業家へ。デジタル化するファッション業界に影響を与える新プラットフォームNOT JUST A LABELの哲学

デジタル化が進む現代、これまでにはなかった新たなビジネスモデルを築く若手実業家の活躍が著しいなかでも、ロンドンに拠点を構えるNOT JUST A LABEL(ノット・ジャスト・ア・レーベル)は今最も注目を集めるファッションディレクトリーサイトだ。

ファウンダーはイタリア出身のStefan Siegel(ステファン・シーゲル)。同サイトは世界中から才能あふれる若いファッションデザイナーたちを見つけだし、サポートをすることを目的する。デザイナーに関する記事やコレクション販売を行う同サイトでは、消費者が直接デザイナーにコンタクトを取り、ダイレクトに受注を行うことも可能。

プレス関係者は撮影などに必要なサンプルの依頼をかけることもできる。現在は約1万ブランドを抱えるまでに成長を遂げ、各国でポップアップや展示会、見本市を開催するなど、精力的に活動を続ける。経済学を専攻し大手投資銀行に勤めていた経歴を持つStefanが、10年前30歳の時に立ち上げたNOT JUST A LABEL。その経緯やビジョン、彼の哲学について訊いた。

Q:2008年に立ち上げたNOT JUST A LABEL、そのきっかけは何だったのですか?

当時投資銀行で働いていて、僕の目標は、最低でも年間売上高1500万ドルの有望なデザイナーに投資することでした。その仕事をする上で、最初に最も苦労したのはクリエイティブな人々を見つけたり、彼らとコンタクトを取ることだったんです。

そういった苦労から、彼らのようなクリエイターを集めて、それぞれの創造性や品質を重視しながら、財務状況などの経営的な指標も把握できるプラットフォームをつくることができれば、地理的な制限なしにファッションデザイナーを見つけたり、トレンドリサーチもできる、今までのファッション業界にはそういうプラットフォームはなかったし、とても価値があるのではないかと考えるようになりました。

Q:実際、どのようにしてNOT JUST A LABELが始まったのですか?

ガレージにプラスチック製の椅子を一脚置いて、そこからスタートしました。まず、僕が大切にしたのは、純粋に良いデザイナーを選んで集めることです。創造性、デザインの品質、革新的な意欲に基づいて、未来のファッションデザイナーたちや、コレクションをすでに発表して販売できるデザイナーを集めました。

実際に物に触れて、彼らと話しをして決めていて、ファッション・メディアやファッション・カウンシルのような組織構造とは反対でしたね。

Q:立ち上げ当初から変わらず大切にしていることは何ですか?

ビジネス的要素を強く持っていて、クリエイティブ業界のかけ出しの若手をサポートすることはすごく大事だと思っています。たくさんのブランドの成長を助けることによって、ファッション業界の未来や、業界のあり方に大きな影響を持つことができると思っています。

そういったクリエイターを発掘して、ビジネスの面でも、僕らと同じくらい速く成長できるようにしてお金を生み出すことが大切です。

Q:才能はあってもビジネスに弱いクリエイターは多いという印象があるので、NOT JUST A LABELはそんな彼らをサポートする意義があるということですね。あなた自身は経済学を学んだ経験からそういった面が強みだと思うのですが、ファッション業界には以前から興味あったのですか?

昔からファッション業界には関心があって、大学の研究でファッションやメディア業界でのインターン経験を積みました。卒業後は、ロンドンとニューヨークの投資銀行で働き、消費者およびリテール部門に焦点を当て、財務の世界に携わりっていましたが、働いてるうちに僕はもう銀行のために働きたくないと思うようになりました。

どういう分野であれ、新しい何かを始めるという難しさは、多くの夢を持った才能あるデザイナーが苦戦しているのを見ていたから知っていました。だからこそ、そういった才能を発掘し、ビジネスとしても支援することのできる信頼できるプラットフォームを作りたいと考えて、NOT JUST A LABELをたちあげました。

Q:拠点にしているロンドンという都市は他の主要都市と比べて特に、若手の育成に力を入れているイメージがあります。ロンドンはあなたにとってどんな街ですか?

NOT JUST A LABELにとってロンドンが適した都市であるという理由は、1000個くらい挙げられます(笑)。ご存知の通りイギリスには、セントラル・セント・マーティンズ、ロンドン・カレッジ・オブ・ファッション、ロイヤル・カレッジ・オブ・アートなど、ファッションデザインにおいて世界最高の教育を提供し創造性を育んでいます。

これらの有力な学校は適切な教育を提供するだけでなく、若い企業が成長するために不可欠な活気ある生態系だと言えます。また、イースト・ロンドンを新進デザイナーの国際的な活躍を目指して政府とも協力しています。長い間クリエイティビティーのハブとして存在してきている都市だから、新鮮で有望な若手を見つけることができる都市なんです。

Q:NOT JUST A LABELは若手デザイナーのサポートだけでなく、デザイナーと消費者を直接繋げるといった、ダイレクトな販売モデルも新しいと評価されています。プレタポルテのホールセールが定着したファッション業界ですが、なぜこのような販売モデルを仕掛けたのですか?

答えはシンプルで、持続可能で倫理的な生産が、環境や人々にとって必要だと思ったからです。この主題は複雑で、何が何であるかを証明する正確な方法はないのかもしれないけれど実際に産業が海洋に与える影響は深刻で生産スピードを上げるために何万人もの子どもが児童労働を強いられている現実があります。

そして、ショップには洋服が在庫として売れ残り廃棄される。こういった悪循環が生まれています。実際、毎年イギリスでは約600万トンの衣類が生産されており、その50%が埋立地に巻き込まれている。この業界システムを打破し、デザイナーと消費者の両方にとって理解しやすく簡単に問題を解決する方法を進めていきたいと考えた結果がこの生産、販売モデルになりました。

最終的な目標は、優れた長期的な製品を設計し、時を超越してユニークで、毎シーズン時代遅れにならないものを生み出すことです。

Q:有機ウールや綿のような環境にやさしい素材の使用を、NOT JUST A LABELはどのように促進しようと取り組んでいるのですか?

持続可能な製品の鍵は、高品質の衣服と技術を選ぶことと、それらに投資することです。それはオーガニックコットンのTシャツを買うのと同じくらい単純ではないかもしれないけれど、材料、調達、そしてどれくらい長く続くかを比較すると意味があることがわかります。

生産過程やクリエイティブプロセス、全てにおいて透明性の高いブランドだけを扱い、消費者にその価値を伝えていくことが重要だと考えているし、そういう意味でデザイナーと消費者のダイレクトな販売モデルは、消費者を教育する能力をも持っているんです。

オーダーしてから商品を受け取るのに3週間程度待たなければなりませんが、その価値はあるし、本当の意味で良質な服は何かということを手にとってもらえれば理解できると思っています。

Q:デザイナーにとって、NOT JUST A LABELのダイレクトな販売モデルはどのような利益をもたらしていますか?

小売価格の70%がデザイナーのポケットに直接入るため、ホールセールよりも格段に収益を上げることができます。ECサイト188カ国に拠点を持ち、いつでも販売することができ、デザイナーはシーズンも気にせず既存のタイムラインで制作する必要もありません。

Q:これまでにない新しいプラットフォームとして、ビジネスモデルを自身で築きあげてきましたが、立ち上げから10年であなたが学んだことは何ですか?

会社を始めて最初の数年間生き残った人は、履歴書には意味がなく、ビジネスを営むことは宝くじではないことに気づくでしょう。ビジネスを行うということは本当の人々、本当の価値、長期的な成長と信用が全てなんだと感じました。

ファッション業界については、人々はもっ​​と時間と空間を持たなければいけないと思うようにもなりました。流行というのは往々にして起きていることで、表層的でしかない。人々の行動や世界を変えるのは簡単ではないけれど、僕らは若いし、世界は僕らの力を必要していると信じています。

Q:10年で急成長を遂げていますが、今後の目標は?

NOT JUST A LABELのプラットフォームは、若い才能の門戸として役立ち、そのモデルが文化の多様性の構造を奨励していくことを目指しています。多くの人が仕切られた業界の既存のルールの外に出て、彼らの才能が繁栄できる新しい生態系を作りながら、世界中の小さな企業を動かすことができるようにしたいと思っています。

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