Virgil Abloh (ヴァージル・アブロー)が受けた影響を読み解く連載も今回で最後。

#1:マルセル・デュシャンの影響

#2:建築から受けた影響

#3:「ルールを破る時代」90年代からの影響

これまで前者2つのテーマで紐解いてきた。今回はOFF-WHITE c/o VIRGIL ABLOH (オフ・ホワイト)でも最も前面に押し出されているであろう、90年代にフォーカスする。

なぜ90年代を「ルールを破る時代」としたのか、それはヒップホップカルチャーやNBAなど、アブローに影響した文化が90年代に(あるいは2000年前半まで)やんちゃな空気をまとっていたから。

Marcel Duchamp (マルセル・デュシャン)から離れ、そしてアブローからも少し離れてしまって、アブローのクリエイトに影響した90年代のこの精神を追っていこう。

NBAのルールを破ったジョーダン

90年代のシカゴと言えばアブローうんぬんを抜きにして、まず Michael Jordan (マイケル・ジョーダン)率いるシカゴ・ブルズの二度にわたるスリーピートや、2016年まで破られることのなかったNBAシーズン最多勝利数などが思い浮かぶ。

そしてもちろんジョーダンを自身のスーパーマンだと称するほど、アブローも彼のファンである。

“Michael Jordan is my superman, (…) A larger than life character doing things that seem impossible.He proved that hard work, dedication and being fearless works 100% of the time if you apply it to any dream or goal you have. What he did in basketball inspires me creatively.”
「ジョーダンは僕にとってスーパーマンだ。偉大な人たちがやってることは不可能に見えてしまう。でもジョーダンは、ハードワークと献身、それとビビらないことが絶対に夢やゴールの手助けをしてくれるって教えてくれた。彼がバスケの世界でやってのけたことはクリエイティブに僕をインスパイアしたよ。」(AIR.より)

出典: https://solecollector.com/news/2017/09/michael-jordan-requests-off-white-air-jordan-1

数々の歴史を生み出し、子供達に夢を見せたジョーダンの初めのシグネチャーモデルAIR JORDAN 1 (以下AJ1)だが、当初NBAの規則に違反していたことはご存知だろうか。

NBAのユニフォーム規定に反するとして着用するごとに$5000の罰金をジョーダンに科すと通達されていた。

シーズン中この罰金をNIKE (ナイキ)が肩代わりしていたとも言われるし、ジョーダンがAJ1を試合中履いている写真がないので肩代わりの話は神話とも言われる。

出典: https://www.architecturaldigest.com/story/nikes-senior-designer-explains-what-went-into-new-air-jordan

神話だと言われるのであればナイキがこのNBAの対応を逆手に取って、AJ1を社会に売り出した行動だろう。ナイキはAJ1が禁止されたことをテレビのCMに利用した。

“On October 18ththe NBA threw them out of the game, fortunately the NBA can’t stop you wearing them”
「10月18日、NBAは(AJ1の)試合での着用を禁止した。それでも君たちが履くことはNBAも止められない。」(Michael Jordan ‘Banned’ Commercialより)

結果として発売から30年以上経った今、LOUIS VUITTON (ルイ・ヴィトン)のデザイナーとコラボしているわけで、まぎれもなくナイキとジョーダンの「神話」である。

法律に逆らったタギング

ニューヨークのメトロにインスパイアされたと本人も語るように、アブローがタギングに影響されたことも周知である。

タギングはグラフィティと少し違う。スプレーを使って壁に「描く」点では同じだが、タギングで描かれるのは名前だ。Françoise Robert l’Argenton(フランソワーズ・ロベール・ラルジャントン)氏は著書 “Communication et Langages” で次のように説明している。

“Le tag consiste à se faire connaître, à se libérer des contraintes ou des problèmes de la vie. Un de mes informateurs me dit à ce propos : le tag signifie que «moi j’existe». Il sert aussi à «s’exprimer et à sortir de la masse des gens».”
「タギングは自分を世に知らせることと、束縛・規制や人生の問題から自分を解放することが役割としてある。『俺はここにいる』であったり、『自己表現、大衆との差別化』をメッセージとして表現しているともいわれる。」(Communication et Langagesより)

出典: http://www.newyorkdailyphotoblog.com/tag/tagging/

本記事2枚目の写真を見ていただければわかるように、アブローはよく“VIRGIL WAS HERE” と書くが、これは自己存在のアピールであり、タギングに由来している。

そして、ストリートアートの台頭により忘れがちではあるが、タギングは一般的に立派な犯罪である。クリエイションに伴う犯罪性というスリルもまた、タガーたちの気分をくすぐるものだ。

なぜならラルジャントン氏が言うように、タギングはもともと「束縛・規制」から解放されるためであって、それにはもちろん警察への反抗精神も含まれる。イリーガルであってもロジックな考えだ、と納得してしまう。

アブローは2017年のOff Campusイベントで次のように語った。

“There’s rules to follow and there’s rules to break, and you have to creatively break the rules.”
「世の中には従うべきルールと破るべきルールがある。僕たちはクリエイティブにルールを破っていかなくちゃならない。」(The Hollywood Reporterより)

ジョーダンやタギングの他には、ギャング色が異常なまでに強かったヒップホップの音楽シーンもあるだろうし、同じくNBAのユニフォーム規定を破ったAllen Iverson(アレン・アイバーソン)や暴動を繰り返したRon Artest(ロン・アーテスト)も挙げられる。

90年代には数え切れないほどルールを破った存在があったことだろう。

そしてもちろんアブローにとって最もクリエイティブにルールを破った見本といえば、モナリザにヒゲを足して「興奮した女だ」と指差したデュシャンであったはずだ。

規制の常識にとらわれないどころか反旗をひるがえすことで新たな感覚を私たちに与えてくれるアブローのクリエイションは、彼の広い趣向とそれをつなぎ合わせることにある。

見事にそれらが凝縮された例はTHE TENのAJ1だ。レディ・メイド、建築、そしてジョーダンへの憧れのすべてが詰まっている。

ジョーダンのように不可能に思えることを成し遂げ続けるアブローの伝説はルイ・ヴィトンのランウェイで確たるものとなった。50年後には彼の伝説は紡がれる歴史になっているだろう。

#1:マルセル・デュシャンの影響

#2:建築から受けた影響

#3:「ルールを破る時代」90年代からの影響

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